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続・無題
「斎藤さん急いで下さいよぅ!」

「何故…。」

大阪より京都への道を上る二人の男。
新選組の一番隊組長沖田総司と三番隊組長斎藤一である。
二人はこの組合せでは珍しく仲良く(!?)
大阪出張へ出向いた帰りの道中である。

「だって一月ぶりの京都ですよぅ~!!
私もう栞ちゃんに会いたくて会いたくて…!!!!!」

「………。(カミさんじゃないのか…!?(怒))」

総司の物言いに顔つきは変らないが、
斎藤の眉間には怒りの四つ角が幾重にも脈打つ。
もちろん総司のカミさんとはセイのこと、
そして栞とは昨年生まれた総司の長女のことである。
斎藤がセイを密かに好いていた事は過去の事としても
やはりこの男のこんな話は斎藤にとっては面白くない。

「栞ちゃんったら昔の神谷さんにそっくりなんですよぅ!
もう可愛くって、可愛くって…!!!」

「………あんたに似なくて良かったな。
(そりゃ神谷に似ていれば可愛いだろう…!)」

斎藤がうんざりと答える。
それを聞いてか聞かずか総司は尚も続ける。

「ああ、それなのに最近忙しくてあまり家に
帰れなかった上に、大阪へ一月も出張行けだなんて、
全く土方さんったら意地悪過ぎますよ~。」

「………。」

「出張前にね、颯介と栞に『高い高い』をやってあげたら
二人ともとーっても喜んでくれたんですよぅ~vvv
あああ、帰ったらまたやってあげよう…!!!」

「………。」

総司莫迦親っぷり全開。
だんだん斎藤はいちいち返事をする気も起こらず、
もはや総司のでかい独り言になっていた。





「そうだ!斎藤さん屯所に着いて報告終わったら
うちに来ません?」

総司が斎藤を自宅へと誘った。

「…一月振りの家族水入らずにそれはないだろう…?」

それは流石に…と斎藤は遠慮しようとしたが

「遠慮しないで下さいよぅ!
セ…神谷さんも斎藤さんに会いたがってますし、
うちの颯介は斎藤さんが大好きですからね!
颯介は私と男の趣味が合うんですよね~。あははは。」

と総司は笑った。男の趣味って…。
颯介とは総司に瓜二つの分身の長男、第一子だ。

「何より、栞ちゃんが超、超、超可愛いんですよ~!!!」

総司は両拳をぶんぶんと振りながら嬉々として叫ぶ。
…結局それだった。

(超はやめろ…。)

総司の年甲斐のない物言いに斎藤は心中ツッコむ。
かく言う斎藤も確かに人妻になったとはいえ、
久方ぶりにセイの顔が見たかったので

「…いいのか?」

と些か遠慮がちにいうと

「ええ♪夜までにお引取り下されば♪」

と総司は満面の笑顔で止めをさした。





 一方、此方は総司の自宅。

「ふんふんふん~♪」

台所から良い匂いと共に軽快な鼻歌が聞こえる。

「うわ~、おいしそぅ~。」

目をキラキラと輝かせた颯介がこっそりと土間に降り立つ。
そして台所に並ぶ料理をそ~っと摘もうとすると

「め!」

とセイに菜箸で手の甲を叩かれる。

「颯ちゃん、栞を見ててって言ったでしょう!?
父上が帰ってきたら一緒に食べるんですから
摘み食いはいけません!
もう、そーいうトコほんっと沖田先生そっくりなんだから!」

セイが息子を嗜めるが

「でも母上ぇ…いつもよりとってもとっても一杯で豪華ですぅ。
お正月でもこんなご馳走見たことないですぅ。」

との颯介の以外と鋭いツッコミに

「あ、あらそう!?ちょっと作り過ぎちゃったかなぁ…?」

とちょっと図星を突かれて冷や汗を流すセイだった。
総司が一月ぶりに帰ってくる。
セイは目茶目茶張り切っていた。





「ただいま帰りましたよ~。」

総司が玄関の戸をガラガラと開けて入っていくと

「お帰りなさいませ、旦那様!」

セイはもう玄関先に座して待ち構えていた。

「斎藤さんも連れてきちゃいました。」

「…すまんな。おセイさん。」

斎藤が申し訳なさそうに頭を下げるが

「あ、兄上!お久しぶりです!清三郎でいいですよぅ!(笑)
ようこそいらっしゃいました!
ぜひお夕飯食べていって下さいね。」

セイは嫌な顔一つせず、むしろ久方ぶりの斎藤との再会に
華の様な笑顔で答える。

(やはり、かわいい…。)

人妻に拙いと思いながら斎藤の胸がドッキュンと高鳴る。
セイの女子姿は男装している時から何度も夢に見るほど
想像していた、ちょっと危ない斎藤であったが
本物は想像以上の美しさであった。そこへ、

「父上、お帰りなさいませ!
うわーい!斎藤さんこんにちはー!!」

セイに暫し見とれていた斎藤に颯介が飛びついた。
颯介は本当に斎藤によく懐いていた。
総司に気持ち悪いほど瓜二つなのはちと気になるが
セイの子だと思えば可愛くない筈はなかった。

「…セイ、栞…栞は!?」

キョロキョロと総司が辺りを見回す。
セイもハッとして自分の背に振り返る。

「え、あ、栞…?」

栞はセイの着物を掴んで後ろに隠れてジっと総司を見ていた。

「あ、栞ちゃんvvv会いたかったですよぅ!…って栞ちゃん?」

栞を見つけて総司は笑顔全開で手を広げるが
栞は一向にセイの後ろから出てこようとはしなかった。

「どうしたの?栞?お父上ですよ?」

セイも栞に声を掛けるが、まるで知らない人を見るかの様に
栞は総司を警戒して、近づこうとはしなかった。
暫しの沈黙が流れる。


……………。


その沈黙を破ったのはハタから見ていた斎藤である。

「…もしやご息女はあんたを忘れているんじゃないか?
あまりに家に帰らなかったからな…。」

斎藤の冷たいツッコミに

「そ、そんなぁ~!!(泣)」

総司はショックのあまり絶叫した。





 総司はかなりいじけていた。

「…あんなに『高い高い』してあげて喜んでたのに、
私の事忘れちゃうなんて酷過ぎます…。
私はこれっぽっちも忘れた事なんかないのに…。」

イジイジと畳にのの字を書く。
栞はまだセイの背から出てこない。
総司の『高い高い』という言葉を聞いて、
斎藤の膝の上に座っていた颯介が
思い出した様に総司のところに寄ってきて

「父上ー!『高い高い』して下さい~!」

と強請ってきた。
いじけていた総司もようやく息子には懐かれて
少しだけ機嫌を取り戻し、

「…はいはい、では行きますよ。高い高い~!」

と颯介を天井近くまで持ち上げた。
高く持ち上げられてきゃっきゃと颯介が喜ぶ。
その光景を見た途端、栞の顔つきが変った。

「…栞?」

今までセイの背から一向に出てこなかった栞が
つてつてと総司に近寄っていったのだ。

「…栞ちゃん?」

総司も娘に恐る恐る声を掛ける。
すると栞は近寄って来たかと思うと
くるっと総司に背を向けて両手を広げた。

「こ、これは…!!!」

総司の喉がごくっと鳴る。
まだしゃべれない栞の
『高い高いをしてくれ』ポーズであった…。





「あははははははははははっ!
あ~、お腹痛い~っ!あははははっ!」

「…笑い過ぎですよ、セイ…。」

「…つまりあんたは自分の娘に
『高い高いをしてくれるおじちゃん』としか
認識されていなかったようだな。」

「…冷静に分析しないで下さいよ、斎藤さん…。」

総司が脱力しながらも二人に突っ込みを入れる。
しかし総司が『高い高い』をしてやっと初めて
栞の記憶に蘇ったのは確かのようである。
全く忘れられていた訳ではなかった様だが、
総司の心境は複雑だった。
散々『高い高い』をしてもらって遊び疲れた栞は
漸く警戒を解いて総司の膝の上で眠っていた。

「…栞にはまだ先生のお仕事が理解できないだけ
なんですから許してあげて下さいね。」

セイが優しく総司を慰める。
自分の父親に対するほどではなかったが
セイには栞の気持ちが少し解る。
自分は父の仕事を、その高い志を理解できずに
17年も過ごしてしまった。
それが今は少し悔やまれるけど…。
だが家にあまりいない総司を忘れてしまっていた栞を
とても責める事は出来ない。
彼女もいつか父の仕事を理解する時が来るだろう。

「解ってます…。寂しい思いをさせてしまってますから…。」

総司が愛しいわが子の髪を撫でながら言った。





 斎藤も屯所へ戻り、二人の子供も寝静まった頃…。

「ぷっ…うふふ…っ」

未だ思い出し笑いをするセイがいた。
流石に総司に悪いと思ったがどうにも止まらなかった。

「…まだ笑いますかねぇ…。」

総司がむっとする。

「申し訳ありません、旦那様…。でも…ちょっといい気味。

セイがポツリと呟く。

「は?」

その小さな呟きを総司は聞き逃さなかった。

「それどういう…。」

妻の信じられない言葉に総司が詰め寄ろうとした時、
セイが観念して白状した。

「だって、総司さんったら栞の事ばっかりなんですもの。」

べーっとセイが赤い舌を出す。

「…何だ、妬きもちですか?莫迦ですねぇ…。」

総司がふっと笑ってセイを抱きしめて優しく口を吸う。
二人の夜はこれから。




お終い。

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夫婦絵

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無題
 丑の刻、誰もが寝静まった頃…。
そろり、そろりと闇夜に紛れて動くものが一人。
暗闇に更に黒ずくめで身を隠し、
音を立てずに忍び寄る…。

 ここは新選組屯所近くの一軒家。
その者、その家の主に断りもなく裏庭より進入し、
勝手に上がりこむ。
玄関から入ってこないばかりか、
訪れる時間も非常識極まりない。
……要するに盗人である。
その男はは誰もいない部屋の襖を音を立てぬように
細心の注意を払い侵入する。
すると部屋の片隅には箪笥。
男は更に忍び足でそれに近づく。
そして箪笥の引き出しに手を掛けようとした時…。

「どなたです!?」

ガラッと障子が開いて、誰かが男に声を掛けた。

「ちッ!」

男が舌打ちをする。
音を立てたつもりはなかったのに、
どうやら家の者に見つかったようだ。
余りに暗闇で、部屋は月明かりがわずかに
射す程度で家の者の影しか判別つかないが、
…先程の声はどー聞いても女子。
ならば、ここを切り抜けることは容易い。
仕事をしないで帰るのは本意ではないが、
見つかっては仕方がない。

「しゃらくせい!」

男は懐の短刀を抜いて女子に斬りかかった…筈だった。

「あ、あれ…?」

たった今障子を開けて立っていた女の姿は忽然となく、
男は大きく空を斬るに留まった。
その瞬間、暗闇で何かがキラリと光ったと同時に、
男の首筋にひやりとした感触。

「…ここが新選組一番隊組長沖田総司宅と
知っての狼藉か?」

背後で先程の女子の声がした。
しかしまるで別人であった。
男が首に感じた冷たい感触はどうやら簪の様である。

「あわわわわわ…っ。」

男はようやく状況を理解して、口篭る。
簪は男の首の皮一枚のところで止まっていた。

「その度胸は敬意に値しますが、
命はいらないと見えますね。」

鈴の鳴るような声に似合わぬ台詞を尚も呟く。
男の首筋からは、つ…と一筋赤い雫が流れ男は
恐怖のあまり一歩も動けなかった。

「ひぇ~っ何だこの女~っっ。」

男は真っ青になって半ば半べそで叫んでいた。
そこへゆらりと障子の向こうから灯りが見えてきた。
灯りは足音と共に徐々にその部屋に近づいて、
開いた障子のところで止まる。

「…セイ…。」

ロウソクを持った男がげんなりと呟く。
彼の持つ灯りによって
盗人と女の顔が浮かび上がった。
途端に女の顔が綻んだ。

「あ!旦那様!賊を一匹捕まえました~!!」



 旦那様の名前は沖田総司、
奥様の名前は旧姓富永セイ…現在は沖田セイ。
彼らはごく普通(?)に恋に落ち、
ごく普通(??)の祝言を挙げました。
ただ…一つだけ普通でなかったのは…



奥様は新選組隊士だったのです。(笑)



「あなたねぇ…。こーいう時は一応私を呼びなさいよ。
私も夫としての立場ってもんが…。」

総司がくどくどと説教している側で、
セイはテキパキと盗人を布団で簀巻きにしていた。

「…?なぜですか?先生の手を煩わせるほどの
輩ではありませんでしたよ?」

セイが首を傾げながら答える。

「母上かっくいー!!!」

騒動に目を覚ました長男・颯介(そうすけ)が
目を輝かせながらパチパチと手を叩いた。
颯介は昔の総司にそっくりである。
それは本当に総司の息子だと
疑いようもない程で…(笑)

「ん!ありがと颯ちゃん♪」

息子の声援に得意げに答えるセイだった。
その光景に泪しながら

「うう…栞ちゃん…
貴女はおしとやかに育って下さいねぇ…。」

総司は腕に抱いている長女・栞にすん、と擦り寄った。
妹の栞はこれまた昔のセイにそっくりだった。

「ちちうえ…いいこ、いいこ…。」

栞は小さな手で哀れな父親の頭をそっと撫でてやる。
幼い娘に慰められる総司だった。

「もう、もう、
栞ちゃんったら可愛過ぎますぅ~!!!」

更に娘をギュッと抱きしめる。
娘をちょっと溺愛しすぎなバカ親総司であった。



 …すっかり簀巻きにされながら、
存在を無視されかけた盗人が総司に向かって叫ぶ。



「てめーッ!

女房にどんな教育

してやがんでぃ~!!!」

負け犬の遠吠えが辺りに響いたとさ。


お終い。
 

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恋はめんどくさい?
とある街道を東へと急ぐ小さな影。

「遅くなっちゃったなぁ…。」
大きな風呂敷包みを抱えた宗次郎が小走りに道を急ぐ。
「早く帰らないとまたおかみさんに怒られちゃう…。」
この時は取るに足らぬ事ではあるが、この少年の足の速さ、
彼の齢にしては些か尋常ではなく、後の彼の気質を思わせたが、
それはまた別の話。さて…。
宗次郎が街道沿いのとある神社に差し掛かった時、
「…セイ!」
大きな声が聞こえてふと足を止める。
「ついて来ては駄目だと云ったろう!」
神社の門前で小さな兄妹が何やら問答しているのが見えた。
その後ろで神主がほうきを持ちながらやれやれ…
という面持ちで二人を見ていた。
そこを通る参拝客も微笑ましく眺めている。
「遊びに行く訳ではない。父上の大事な使いなのだ…。」
「嫌です~!!!セイも兄上とゆきますぅ~!」
どうやら兄が小さな妹を嗜めている様だった、が。
「あ…。」
彼がその小さな方に目を留めた途端、ふと驚きのあまり、
ついぞ声が出てしまった。
あの子…八幡様で会った…。

桜の精…。

と、思うが同時に小さな方がバッと宗次郎の方に振り返る。
先程の彼の声が聞こえた様だった。
え…?
とっさに振り向かれ、宗次郎は少女と目が合い、
ドキリとする。
彼女の大きな目には大粒の泪。
「ん?どうしたセイ?」
すると妹の様子を伺って、兄の方も宗次郎を見やる。
二人に怪訝に見つめられた宗次郎は、よろよろと近づき、
バツが悪そうに声を掛けた。
「あ、こんにちは…。」
そして、えへ…と眉を顰めて笑いながら挨拶をしてみる。

「あ!!」
今度は少女の方が叫んだ。
彼女の方にも辛うじて微かにまだ記憶に残っていた様だ。

(誰…?)
妹の様子に兄が少し驚いて疑問を抱く。
が、これは好都合とばかりに宗次郎に声を掛ける。
「やあ、セイのお友達かい?」
「はは…。」
友達…といえるのだろうか?
市谷八幡で迷子同士ちらっと会話を交わしたことがあるだけだった。
少女のマジマジと見つめる視線が痛くて、
宗次郎は返事をする訳でもなく愛想笑いをする。
「ちょうど良かった。
小半時、この子とこの神社で遊んでやってくれないか?
神主さんもおられるし。
用事を済ませたら、すぐに迎えにくるから。」
兄の言葉にガン!と少女はショックを受ける。
兄は自分を置いて行こうとしていたのが分ったからだ。
「え、あ、はい!」
そして宗次郎も思わず良い返事をしてしまった。
「私はセイの兄の富永祐太郎と申します。君は…?」
武家の出なのだろう。
祐太郎と名乗る少年は礼儀正しく名乗った。
齢は宗次郎よりも少し上の様だが、末っ子と兄の違いだろうか。
二人の行儀の差は歴然だった。
「あ、お、沖田宗次郎です!!」
宗次郎も慌てて名乗った。
「…では宗次郎殿。妹を…セイを宜しく頼みます。」
祐太郎が頭を大きく下げる。
「は、はい!」
宗次郎もピシッと背筋を伸ばして答えた。
そして、大変な事を任されてしまった…と内心ドキドキするのだった。
「あにうえ~~~。」
祐太郎の袖を掴み、妹のセイが更に泪をためて訴えるが、
「いい子にしているんだよ、セイ。すぐに迎えに来るからな。」
祐太郎はセイの頭を撫でて優しく云った。
きっと彼も可愛い妹を託すのには多少の引っ掛かりはあるだろう。
そして頭を撫でた手をそっと離し、セイを残し立ち去った。
「あにうえ~…。」
ポツンと残されたセイはいつまでもいつまでも
祐太郎の背を見送っていた。


 寂しそうな彼女に何て声を掛けて良いものか、
暫く悩んでいた宗次郎であったが、意を決して声を掛ける。
「と、とりあえず何して遊ぶ?」
すると今まで泣いていた彼女がそれには答えず、
くるりと宗次郎に背を向けてスタスタと歩き出す。
「…ってドコいくの!?」
宗次郎が彼女の後を慌てて追う。
「せっかく神社にいるんだもの。お参りするわ!」
泣いたカラスが…もう、怒ってる?
宗次郎は彼女の横に並んで歩いて顔を覗く。

ほんと…お人形さんみたいな子だなぁ…。

セイの真っ直ぐな黒髪と大きな瞳は
正に日本人形の様に愛らしかった。
境内に着くとセイはガラガラと鈴を目一杯鳴らし、
パンパンと拍手を大きく打つ。
でも、やる事豪快だけど…。
宗次郎は思うが口には出さなかった。
こんな小さくても気の強い子だもの、殴られるかも…
とヒヤヒヤした。
「じゃあ私も…。」
せっかくなので宗次郎も一緒にお参りをすることにした。
彼女の横で一緒に手を併せる。神仏に願う事は…

立派な武士になれますように。

若先生のように強くなれますように!

そして歳三さんに勝てますように!!!!!←大本命。

一通り、心に願い事を唱えた後、
宗次郎はちらりと片目を開けて横を覗く。
セイは目を閉じて今だ手を併せていた。

…かわいいなぁ。
何をお願いしているのかな…?

宗次郎がそう思うと同時にセイが突如叫んだ。
「兄上のお嫁様になれますように!!!」
その大きな声に宗次郎はギョッとしたが、
「な…。」
それよりも何よりもセイの願い事の方が彼の心に引っかかる。
なんだろう、このもやもやした気持ち…?
そうだ!この子は勘違いしている!教えてあげなくちゃ!!
そう思って宗次郎はセイに声を掛けた。
「きょ、兄妹はケッコンなんてできないんですぅ~。」
宗次郎の言葉は何故か意地悪口調になってしまっていた。
「できるもん!」
ガンッと頭にきたセイが宗次郎に噛み付いた。
「できない!」
負けじと宗次郎が言い返す。
「できる!」
セイも負けてはいなかった。
「で~き~な~い~!」
「で~き~る~!」
「こ、これ…。坊たち…。」
見かねた神主が声を掛けるが二人の間にはとても割って入れず…
二人は夢中で言い合った。
あまりにもセイが頑なものだから、宗次郎のイライラは絶頂になり、

「できないったら!!!」
と殊更大きな声で否定してしまった…。すると…
「うわあああああぁ~ん!」
とうとうセイは泣き出してしまった。セイの嗚咽が境内中に響き渡る。
一斉に参拝客が二人に注目する。
「えっあ、ごめん、泣かせるつもりじゃあ…っ。」
はっと我に返った宗次郎が慌ててセイを慰めようとするが、そこへ…
「おい!ソージじゃねーか!!こんな所で何してやがんでぃ?」
聞きなれた嫌~な声がして、宗次郎は恐る恐る振り返る。
その声の主は…。
「歳三さん!!」
歳三が偶然通りかかって声をかけてきた。
行商の途中なのか背には石田散薬の薬箱と幟。
「お、いっちょ前に女泣かせてやがんのか!?生意気な。」
ニヤニヤと宗次郎を冷やかす。
女泣かせではこの男に適う者はちょっといまい。
「え、違…っ。」
慌てて否定する宗次郎だが、実は違わない。
それでも尚、言い訳しようとする宗次郎の頭を鷲掴みに押しやり、
歳三は今だ泣き止まぬセイに声を掛けた。
「悪ィな、嬢ちゃん。こいつは女心がわからなくていけねぇ。
そんなに泣いたらせっかくの別嬪さんが台無しだぜ。」
百戦錬磨の台詞…の筈だった。
が、幼女には十年早かったらしく…
「びえぇ…鬼が出たぁ…こわいよぅ…!」
セイが歳三の風貌に怯えて更に泣き出した。
「誰が鬼…っ。」
「や…。」
セイが恐怖の余り、ギュッと目を瞑る。
何といっても二枚目で通していた歳三だ。
子供とはいえ女子に嫌がられたのが癪に障って、
大人気なく歳三が声を荒げようとした時…
「お、何だソージ?」
宗次郎が自分の背にセイを隠す。
怒鳴られると思って瞑った目をセイは今度は驚いて大きく見開く。
宗次郎の小さな背でも、もっと小さな彼女には大きく見えて…。
「いくらこの子が可愛いからって
歳三さん手を出しちゃ駄目ー!!
ついでに泣かせちゃダメ~!」

宗次郎が張り叫ぶ。
「誰が出すか!!!ってかお前が泣かせてたんだろが!」
そしてその言葉に更に青筋を立てた歳三が大人気なくツッコむ…。
しばらく睨み合いが続いていたが
「え…?」
ふと宗次郎の背中の着物を掴まれる。
歳三との言い合いに夢中になっていて彼女の事をふと忘れていたが。
そこには宗次郎の着物を掴んで彼に頼る彼女の姿があった。
宗次郎は初めて女子に頼られて、ほんわかした気持ちになる。
そして照れたようにセイに声を掛けようとした時…
「あ、あの…。」
「あ!」
だー!とセイが宗次郎の背を離れて駆け出した。
「えええっ…!?」
宗次郎が言の葉の先の行き場がなくなってしまった。
「兄上~!!」
その先には祐太郎がセイを迎えに立っていた。
「セイ、遅くなってすまない。いい子にしてたかい?」
「あにうえ~!」
セイは嬉しさの余り祐太郎に飛びついた。
それをしっかり祐太郎は受け止める。
彼女の中に確かに芽生えたものがあったに違いないのに、
それは最愛の兄の出現にいとも簡単に吹き飛んでしまっていた…。
あっけに取られた宗次郎はしばし放心状態になって石化してしまった。
「お?」
歳三も拍子抜けで間抜けな声を出した。



 祐太郎はセイを連れて宗次郎と歳三に一礼して立ち去って行った。
セイは今度は兄の背に隠れてしまって
宗次郎と少しも目を合わすことはなかった。
宗次郎の心にはぽっかりと大きな穴。



 カラス鳴く夕焼けの中、二人はトボトボと試衛館への道を帰っていく。
「よお…見事に振られたなぁ、ソージ。」
歳三が慰めるでもなくからかうでもなく宗次郎に声を掛ける。
「そんなんじゃないですってば!」
宗次郎が否定するが強がりにしか聞こえなかった。
「…で、何でまたあの子泣かせてたんだよ。
女泣かすなんざ十年早ぇんだよ、ソージのクセに。」
「そ、それは、だって…。」
あの子ってば、私と一緒にいるのにお兄さんのことばかりいうんだもの…。
あまつさえ…お、およ、お嫁様だなんて…っ。

…あの子がお嫁様になったら、さぞ可愛いんだろうなぁ…。

そこまで考えて宗次郎はぶんぶんと頭を振る。
「いいんです!私は剣術に生きるって決めましたから!
女子など修行の邪魔です!」
「へえぇ、そーかよ。生意気な。」
歳三が宗次郎の頭をぐりぐりと小突いた。



「あ!」
宗次郎がまた急に叫んだ。
「今度は何だよ!?」
歳三が聞き返す。

そうだ、ほんとはあの時のお礼を云う筈だったのに
本当に何で泣かせてしまったんだろう?

『私は貴女のお陰で泣き虫を卒業できたんです。
こんな私でもいつかは公方様のお役に立てるんだと
信じられる様になったのは貴女のお陰なんです…。』

彼女に誓った言葉を心に繰り返す。
「…秘密です。」
でもそれは口にしちゃいけない内緒の誓い。
「変なヤツだな…。」
歳三が呆れて溜息を漏らした。

今度会ったら絶対に云おう。


――――――また会えるかしら?




お終い。
 

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風光る京都~傷跡~ 番外編 居続け総司


いたずらは許して

あなたに構われるがために

ここに来ているようなあたしを





 セイの膝枕の上でまどろむ総司に襖の向こうから水を挿す声。



「へえ、ごめんやっしゃ。沖田はん。」

「…はい?」

急に現実に引き戻されて総司が怪訝に返事を返す。

「お楽しみのところ申し訳ありませんがお時間ですよってに。」

「ああ、そうか。」

総司がむくっと起き上がってセイと目を合わす。

「沖田先生…。」

セイが名残惜しそうに総司を見つめていた。その仕草が可愛くて、総司は後ろ髪を引かれ捲った。そしてまたごろんと寝転がり、セイの膝に頭を乗せて

「まだ帰りたくないなぁ…。」

と駄々っ子の様に呟いた。

「…先生?」

セイがもう一度たずねると総司は上目遣いで言った。



「すみません…今晩は泊めてもらえませんか?」










「沖田先生、これ羽織って下さいな♪」

セイは居続ける総司の為にいそいそと着物を用意した。

「これ…ですか?」

総司はセイの用意した着物を見て眉を顰める。

「ええ、先生のお着物は掛けておきますので、どうぞこちらにお着替え遊ばして♪」

心なしかセイの口調は楽しげで。

「…はあ。でもこれ、女物に見えるんですけど…。」

「ええ、そうですよ!私の着物ですから。ここでは女物を着るのが粋なんですよ~♪♪♪」

セイが嬉々として答える。

「へえ、そんなもんなんですかねぇ…?でも私女物なんて似合わないと思うんですけど…。」

やはり総司にはちょっと抵抗があるようだ。それでもセイは食い下がる。

「そんな事ありません!先生はきっととってもお似合いになりますよ!!!さあ、さあ早くお着替えになって遊ばして!」

じれったい総司にセイは鼻息荒く総司の着物を脱がせにかかった。

「わあ、自分で着れますよ!…にしても何か太夫嫌に楽しそうじゃありません~!?」

総司が真っ赤になりながら、慌ててセイから着物を取り上げる。

「うふふ、そんなの先生の気のせいですってば♪♪♪」

そうして無理矢理女物に着替えさせられる総司であった…。










「…ぷ…、いやん沖田先生スッゴイお似合いですぅ~!!!」

セイが少し涙目になりながら口を押えて言う。細身だが背丈のある総司に、そのきつめの赤い衣装は妙な味わいを醸し出す。

「…太夫、顔が笑ってますよ。どうせヒラメ顔にはこんな派手な着物おかしいんでしょうよ。」

総司が不機嫌に卑屈になって答える。

「そんな事ありませんって!とっても素敵です!…
うふふっ。」

セイは笑いを堪えながら、また奥から何かを持ってきた。そして少し膨れている総司に

「さ、先生ここにお座りになって!」

と自分の前をペチペチと叩き、座るよう即す。

「今度は何です…?」

すっかりセイのペースに呑まれて総司は渋々腰を下ろす。

「目を閉じて下さい。私がいいと言うまで決して目をお開けにならないで…!」

先程とは打って変わってセイの真剣な眼差しに、総司は思わず言う通りに目を閉じる。

「…こうですかぁ…!?」

「しっ!しゃべらないで…。」

すると総司の鼻先にふっとセイの吐息がかかった。総司はそのくすぐったい感触に背筋がぞくりとした。多分目の前にはセイの顔が間近にあるに違いない。目を閉じている分、その想像はあれこれと膨れ上がり総司を興奮させる。

(太夫、もしかして…。)

総司はセイが次にするだろう行動に胸躍らせて、生唾を飲んで唇をきゅっと引き締めた。

「…そうそう、口はそうやって引き締めて…。」

何だかセイの物言いは淡々としている様に感じるが、意地っ張りのセイの事だ。きっと照れているに違いない。何しろ二人はつい先程通じたばかりなのだから。

(まったく、照れ屋なんだからぁ…。)

と総司が心中ゴチた時、唇に何かが触れる。それは想像した暖かくて柔らかいもの…ではなくて、何だか冷たい。

(ん…?)

総司は予想と違う感触に訝しげに思う。

(あれ…?太夫の唇ってもっと…。)

つい先程味わったばかりのセイの唇を総司は必死で思い出す。それは暖かくて柔らかくてとても甘い…。と、そこまで考えて

「はい!いいですよ!!目ェ開けて下さい!」

とセイに意識を戻されて、総司は慌てて目を開けた。

「もう終わりですか!?」

総司がうっかりセイに聞いた。セイも総司の思わぬ反応にちょっと驚いて答える。

「え?もっとして欲しかったですか?先生お嫌かと思って…先生が良いのでしたら、もっとちゃんと白粉までつけたのに…。」

「はい!?」

どうやら二人の会話は噛み合っていない様だ。総司は訳がわからずうろたえる。総司は首を傾げながら

(いったい何だったんだ…?女子ってわからないなぁ…。)

そうして普段女心に疎い自分をこの時ばかりは呪った。そんな男心を察しない総司に負けず劣らず野暮天女王セイは

「じゃ~ん♪」

とにっこり笑って総司の前に手鏡をかざした。自分の姿を映し出されて、総司は目の前が一瞬真っ白になる。



「何じゃこりゃ~!!!???」



総司の唇には真っ赤な紅。総司は女物を着て、紅まで注されてすっかり女装させられていた。

「きゃ~vvv先生可愛いですぅ~vv」

セイがパチパチと手を叩いて喜ぶ。総司はセイのいい玩具になっていた。

「……………太夫。ちょっと悪戯が過ぎません!?」

総司がむっとしてセイに詰め寄る。

「悪戯じゃありませんよ!ここでは女物着て紅まで注すのが粋なんです♪」

セイがしれっと言う。が、

「…嘘でしょう。」

流石の総司にもそれくらいはわかる。女子に弄ばれて、総司の中の鬼再び再発。(笑)

「…先生?」

総司の顔つきが変ったことに、セイがハタッと気付いた時にはもう時既に遅し。

「…人に紅注している場合ですか?貴女の紅はすっかり取れてしまっているのに…。」

総司が低い声で呟く。

「え、あ、すみま…。」

セイが慌てて鏡を見るが、総司はその手を取って強く引き寄せる。

「あ…。」

その痛いほどの力にセイは鏡を取り落とす。

「…でもそれも私のせいなんですけどね。」

そう言って総司がにやりと笑った。それはあまりにも冷ややかで、その凄みにセイの体が強張る。紅を注している分、総司の姿は更に怪しく見えて…

「せんせ…。」

と言うと同時に総司に押し倒されて馬乗りになられた。あまりの突然のことに今度はセイがされるがままになってしまっていた。そして顎を取られて強引に唇を押し付けられた。

「んぐ…ふ…っ。」

それは自分の全てを押し付ける様に、セイの全てを吸い取る様に、貪る様に痛いほどに強く激しく長く…。あまりの激情に愛液が端から流れ出ても尚も続く。これ以上は窒息してしまいそうなほどの長い口付けに、セイがもがき始めて漸く開放された。

「…ほら、紅つけてあげましたよ♪」

激しい口付けに未だ息整わずに言葉を発せられないセイに対して、総司がにっこり笑って言った。しかしその瞳は当然、本当に笑っている訳ではなく…

「これで終りじゃありませんからね。夜は長いんですから。」

この男、普段おちゃらけている分、キレると怖かった。てゆーか、キレなきゃコトに及べないのかも…とセイは少し思ったり。先程は可愛いと思えた総司の女装が、今は妖艶で妙な色香まで醸し出して…。



結局のところ、セイは自分の悪戯心を少し呪う羽目になったとか。(笑)




おちまい。
 

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風光る京都~傷跡~ おまけ絵

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風光る京都~傷跡~ 最終話 またか…(笑)神谷清三郎誕生! 
「……こんな所で何をしているんです…?」

超不機嫌な総司のくぐもった声が響く。

「だって私まだ一応新選組預かりですから!少しでも皆さんのお役に立ちたくてこうして賄い方さん達のお手伝いをしているんです!!」

セイが元気いっぱいに答える。周りの賄い方は華の出現にでれでれだ。総司は堪らずセイの手を引いて外へ連れ出す。

「何考えているんですか!!こんな男所帯に女子の分際で、無防備にも程があります!…それに何です、その格好は!」

わなわなと総司が指を差す。

「ええ、ですから男装してるんです!変ですか?」

彼女が嬉しそうに答えるその姿は流石に月代は剃ってはいなかったが、長い黒髪は後ろにまとめて高く結わき袴を穿いていておおよそ女子がする様な格好ではなかった。セイは袖を掴みながら総司の前でくるりと一回転して見せる。艶やかで真っ直ぐな黒髪は風になびき、袴の裾がひらりと翻る。それはまるで役者絵から飛び出してきた美しい若衆の様でその仕種は実に可愛らしかったが、総司は惚けている場合ではなかった。

「そりゃ可愛いですけど…ってそういう問題じゃな~い!」

ぶんぶんと総司が頭を振る。そんな総司を無視してさらにセイは張り切って言葉を続ける。

「ですからご心配下さるならどうぞ沖田先生、私をビシビシ鍛えて下さいね!剣術は兄上と稽古してしましたし、新選組の方々にはまだまだ足元にも及ばないでしょうけど、その辺の殿方には負けない自信はあります!いずれ皆さんにも追いつける程に清三郎は強くなりとう御座います!」

(そして沖田先生を護れるくらい強くなりたい…!)

あまりのセイの張り切りぶりに総司はげんなりとする。

「あのねぇ、おセイちゃん…。」

「あ、今日からセイではありません!神谷清三郎と名乗りますので、先生もどうぞそうお呼び下さいね!」

嬉々と名乗るセイにぶちっと総司の中の何かが切れた。

「……そうですか。では神谷さん…私の稽古は荒く容赦がないと評判ですから覚悟して下さいね…。」

「…はい。」

只ならぬものを感じてセイの咽喉がゴクッと鳴る。










隊士連中が見守る道場の中、二人は稽古していた。

「…もう終わりですか?神谷さん…。」

(鬼~~~!!!)

隊士たちの心の叫びは総司に届くハズもなく。

「い、いいえ!まだまだぁ!」

総司にコテンパンにのされたセイがフラフラになりながら立ち上がろうとするが、足がもつれて思いっきり転んでしまった。涙を拭いながら尚も立ち上がろうと頑張るが総司に打たれた所と転んでぶつけた所が見事に紅く腫れ上がって痛々しい。皮肉にもその紅はセイの白い肌には一層映える。堪らず総司にぶちのめされる覚悟でセイに懸想した隊士たちが一斉に駆け寄ろうとするが、それは当の総司によって阻まれる。

「手出し無用です。神谷さんには指一本触れないで下さいね。」

と違う意味でも『私の神谷さんに手出し無用』と宣告され隊士たちが固まる。笑顔で言われるから一層恐い。そうして総司はセイに近寄ると

「だから言ったでしょう?」

と耳元で呟きセイを抱き上げる。目を潤ませながら真っ赤になって何も言い返せないセイに総司は続けて

「今日はとても動けないでしょうけど、今夜だって容赦しませんから。」

と止めの言葉を刺した。

「先生の助平!」

セイの渾身の一撃がパン!といい音を響かせて総司の左頬にクリンヒットした。しかしそんな事に全く怯む事無く総司はさらに凄む。

「おや、まだそんな元気がありますか?今度こそ腰たたなくして上げますからね…。…いてっ。」

抱き上げられているセイが総司の首元にしがみついた。総司はセイが観念して抱きついているのだと一瞬糠喜びしたが、総司の背中に小さな痛みが走る。セイが最後の抵抗とばかりに総司の背中に爪を立てたのだ。総司の眉がにわかに歪む。






何度も振り回されて怒って傷ついて

でもあたしちょっとだけ

ひっかいてひっかいて

消えない跡残す口元ゆるんだ






「な~にやってんだか…あいつらは。」



呆れ顔の土方に大いに涙を流す斎藤、そして何度総司にのされようともちょっかい出す気満々の長倉。原田、藤堂の三人組。ある意味まだまだ平和な時の新選組のお話。屯所内では桜の木は新緑が芽吹き初夏の訪れを告げようとしていた。こんな若人たちにももうすぐ熱い季節がやってくる。










当の二人は人気の無いところに着いても懲りずに今だ小さな攻防戦を繰り広げていた。ふいに総司が抱き上げているままのセイの胸に顔を埋める。

「ちょっ…、沖田先生…!?」

「…ほんとにもう。私以外の誰にも心許さないで。さもないと私どんどん意地悪になっていっちゃいますよ…。」

多分本気で言っている。あまりに勝手な言い草。なんて我侭な恋。でもその声が余りに真剣だったのでセイは一瞬ドキリとしたが、何とか絆されることなく総司の頬をつねって自分の胸から引き剥がす。

「ドサクサ紛れに何するんですか!私だって怒ってるんですから!わ~、ヒラメ顔が余計平たくなっちゃいましたね~!」

「………酷い。人が気にしている事を…。」

「あはははは…。」

総司の脅しに少しも屈しない。今度はセイが真っ直ぐな眼差しで答える。それは微塵の迷いも無く…



「…セイは貴方のお傍にいられる為ならば、他に何もいらないのです。だから…。」






いたずらは許して

あなたに構われるがために

ここに来ているようなあたしを







そうしてどちらからともなく口付けを交わす。







 


「うん。幸せかも…。」





おしまい。




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風光る京都~傷跡~ 第十九話 大どんでん返し…?


あなたの甘えたその手を払って気付かれて





 そんなこんなでセイは総司には内緒で新選組により請け出され、一時的に近藤の妾宅に身を潜めて今回の捕り物に一役買わされたのだ。全ては土方の策略だった。







物凄い形相の総司がセイに詰め寄る。

「どーして黙ってたんですか!?」

「すみません…。」

総司に怒鳴られてしゅんとするセイに思わぬ助け舟が出た。

「言えばお前、賛成したか?こいつを危ねえ目に合わせたくねえとかうだうだ言ってやがったからな。こいつは俺が買わなきゃ他の奴に身請けされちまうトコだったんだよ!」

詰め寄る総司に対し、土方の背にセイが隠れる形になった。それが益々総司の癪に障る。

「う…、その構図、止めて下さい。まるで私が悪者みたいじゃないですかぁ。
太夫、そーだったんですか…?」

土方の背中越しのセイに疑問に加えて嫉妬心も絡まり、総司は尚も詰め寄る。

「…もう太夫じゃありません。」

「話、逸らさないで下さい。本当に…?」

「…はい。副長が身請けして下さらなければ私は大店に落籍されるお話がありました。だから私は副長のお話をお受けしたんです…てゆーか、正確には先に勝手に新選組に請け出されちゃってて、私には事後報告だったんですけど…。」

セイは恐る恐る土方の背から出てきた。そして総司は漸く全てを理解した。自分は土方らにグルになって騙されたと…。それで自分がどれほど落ち込んだかという事をいっそセイにぶつけてやりたかったが、それよりも…

「もう、なんて馬鹿なひとなんでしょう…!」

愛しくて、嬉しくて、一目を憚らず総司はセイを力いっぱい抱きしめた。セイがどこも怪我をしていないかを確かめる様に弄りながら。

「先生には…言われたく、ありま…せ…。」

セイも総司の背中に手を回す。言葉は涙で途切れた。…そこへ水を挿す低い声。

「お愉しみのところ悪ぃがな。こいつの身請け金は手前の給料から天引くからな、総司。完済するまでは全部が手前のもんって訳じゃねえんだから、そこんとこよ~く肝に銘じて…って言ってる傍からイチャつくんじゃねぇー!」

「…土方さん、ご尽力誠に有難う御座います。でもさっきからごちゃごちゃ煩いですよ。馬に蹴られる前にどっか行っちゃってくれません?」



カッティーン!



「あー、そうかよ!言っとくがな、新選組名義で身請けした以上、まだ俺(ら)のもんでもあんだかんな!時々摘ませて貰うかもな!はん!」

と土方は捨て台詞を吐いてその場を去っていった。総司の腕の中でセイはドキリとして土方の強引な口付けを思い出し、顔が熱くなるのを感じた。

(やだ、私ったら…。)

総司は漸く去った土方の背を見送りながら唇を尖らす。

「全くもう、何て事言い出すんでしょう、あの人は…って太夫、じゃあなくて…えーと、おセイ、ちゃん…?真っ赤ですよ。どうかしたんですか?まさか、土方さんにもう何かされちゃったんじゃ…。」

セイは総司に皆までは言わせず、総司の襟首を思いっきり引っ張って、精一杯背伸びをして、総司の口元を自分のそれで塞ぎ、言の葉の先を奪う。ちょっと驚いた総司だったが喜んで彼女に応えた。






そうあたし思い切って

ひっぱってひっぱって

目開けて背伸びで口元奪った


 追伸。その後、セイはどうしたかというと…
近藤の仲人のもと目出度く総司と祝言を挙げて、新選組の屯所近くに新居を構え二人仲良く幸せに暮らしましたとさ。





ちゃんちゃん♪

































………………な訳ではなく。新選組の屯所の台所に立っていた。




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風光る京都~傷跡~ 第十八話 お兄様と呼ばせて下さい
 セイを迎えに来たのは斎藤一だった。斎藤は思わぬ特命に浮かれていた。『口外無用、総司には特に。』という辺りも尚良い。斎藤は深呼吸して勤めて冷静に襖の向こうに声を掛けた。

「新選組の者だ。あんたを迎えに来た。」

久方振りのセイとの再会。遊女になってしまったのは不憫だったがそれとて今日で終いだ。先日屯所に現れた彼女は以前よりも遥かに綺麗で、斎藤は彼女への想いを自覚した。総司の馴染みというのが気に入らないが、総司に内緒で身請けしてしまうとは土方副長もまた粋なことをする、と感心した。

「御免。」

高まる胸を抑えながら平常心、と自分に言い聞かせ襖を開ける。となんとセイが斎藤にダイブしてきたのである。

「兄上―――――ッ!!!」

どっきゅーん!

(はうっ!)

斎藤の平常心はいとも簡単に剥がれ落ち、心の中で喘ぐ様な悲鳴を上げた。セイが自分の胸に抱きついている状況に心の臓は今にも破裂寸前である。セイが嗚咽しながら叫ぶその姿はまるで迷子になっていた小さな童子そのものでとても花街の太夫だったとは思えない程で…。

「兄上、兄上~、兄上~~っ!生きていて下さったんですね~!うわーんっ!あにうえ~~~っ。」

(…………ん?)

数秒硬直した後、斎藤は異変(?)に気づき、自分からセイをそっと剥がし恐る恐る声を掛ける。

「…と、富永?」

「……へ…?」

セイも久方振りに苗字で呼ばれ何だか様子がおかしい事に気づいてはっと顔を上げた。そしてやっと人違いに気づく。

「も、も、申し訳御座いません!わ、私ったら!お武家様のお声があまりにも死んだ私の兄と似ておりましたので…っ。」

セイは耳まで真っ赤になって慌てて土下座した。漸く平常心を取り戻した斎藤はそういうことか、と彼女の手を取って優しく語りかけた。

「いや、構わんよ。それよりおセイさん。俺を覚えているか?その…君の兄上と同門だった斎藤一だが…。」

セイは恐る恐る顔を上げて斎藤の顔をしげしげと確かめた。

「…!斎藤様っ。覚えております!吉田道場で兄上ととても仲良くして下っていたお方ですね!お懐かしゅう御座います!ああ、それなのに私ときたらとんだ早合点をしてしまい申し訳御座いません!私、斎藤様のお姿を拝見した事があっただけで、お声をお聞きするのは初めてでしたので…。」

セイは尚も謝罪する。斎藤は心の中でゴチる。

(…当然だ。富永がそれをさせなかったからな…。)

「これからあんたは新選組預かりとなる。宜しくな。」

「わあ、斎藤様も新選組だったのですね。それではこれから斎藤先生とお呼びさせて頂きますね。」

セイが先ほどの無礼への照れ隠しも含めはにかんだ笑顔を見せる。その笑顔があまりにも可愛らしかったので、斎藤の胸は再びどっきゅんと高鳴る。そしてあろうことかセイが下から斎藤の顔をマジマジと眺めていてその痛いほどの視線に自慢の平常心がいとも簡単に揺らぐ。

「こんなに兄上と斎藤先生が似ていらっしゃるとは気づきませんでした…。あの…兄上と呼ばせて頂いても宜しいですか…?」

(…『兄上』…『兄上』…
『兄上』…。それはもしや一人の男としては見て貰えないんじゃないか…?)

セイの言葉が斎藤の胸に木霊する。斎藤の心中はかなり複雑だったが愛しいセイのお願いには抗えなかった。

「…ああ、構わんさ。」

斎藤は平常心を装い泣く泣くその兄役を承諾する羽目になった…。

(沖田さんとは闘わずして負けた…。)

理不尽な敗北が斎藤を襲ったが

「有難う御座います!兄上~っ♪」

そう言って嬉しそうに腕を組んでくるセイに

(いや、ある意味勝っているのか…?)

と微妙な役どころと役得に少しだけ胸躍らせ、自分を慰めた。そんな斎藤の鉄火面の下の奥深~い心境を総司に負けず劣らず野暮天女王のセイは隣にいながら、これっぽっちも、欠片にも、小指の爪の垢ほどにも、微塵にも、全く知る由も無かった。

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風光る京都~傷跡~ 第十七話 鬼副長の策略
 経緯はこうだ。場所は花家。

「…昨日の今日でいったいどうなすったんですか?」

意外な客にセイは驚きを隠せなかった。例の宴の翌日、土方がまた花家を訪れセイを指名してきたのである。たらしだ、何だ、と総司から散々聞かされてはいたけれど、昨日会ったばかりで、幾ら何でも早すぎる!とセイは閉口した。土方はまだ一言もしゃべらず酒を軽く仰っている。その横顔はあまりにも端整で、様子を伺っていた筈のセイがいつのまにか見とれてしまっていて、こんな綺麗な男の人もいるんだぁ…と妙な感心までしていた。不意に土方がこちらを向いたので、セイは慌てて目を逸らす。

「お前…身請け話があるらしいな。」

「え?」

土方の言葉にセイは心の臓が飛び出そうなほど驚愕した。

「総司は知ってんのか…?」

セイは言葉にならず頭を思いっきり振るだけで、涙も一緒に飛び散った。土方は深いため息をついた。

「…だろうな。あの馬鹿、間抜けにも程があるぜ。」

セイは尚も頭を振った。沖田先生が悪い訳じゃない、と思いながらもそれは言葉にならなかった。

「お前はそれでいいのか?」

土方がセイに訊ねるが、セイは俯いたまま何も答える事が出来なかった。土方はその仕種でセイの本心を知り、再び酒を仰ぎ始めた。二人の間に暫く沈黙が流れた。





胚をコトリと置き、その音でセイが顔を上げた時、土方が信じられない言葉を発した。



「お前の命、新選組が買う。」



一瞬、何の事を言っているのかセイには意味が解らなかった。大きな瞳をさらに見開いて土方の方を見た。

「聞こえなかったか?お前の命は新選組が買うと言ったんだ。」

不敵に笑い、土方がもう一度繰り返す。

「嫌か?俺の見たところお前は大店でなんか囲われる玉じゃねえ。総司の為なら例え火の中、水の中でも飛び込んで行くだろうよ。そんな奴が若旦那の機嫌だけをとって生きていられるかってんだ。ま、お前が嫌だと言ったところでもう女将には話をつけてきちまった。お前に選択権はねえ。」

土方の強引で決め付けた物言いにセイは思わず噴き出した。かなり無茶苦茶言われている様な気がするが、成る程当たっている。セイは堰を切った様にしゃべりだした。

「…こんな花の乙女を捕まえてあんまりな言い草ですね。それに私に断りも無くそんな大事な話を勝手に決めてきちゃうなんて、全く人の事を何だと思っているんだか。沖田先生といい貴方といい新選組の男ってば、ほんっっとにどうしようもない人たちばかりなんですね。呆れて物がいえませんよ。」

「散々言ってんじゃねえか。それに…何を笑っていやがる。」

つられて土方もふっと笑った。セイは銚子を手に取った。

「さ、副長おひとつどうぞ。」

「おう、手酌にしちゃあ随分高い酒だと思っていたところだ。」

「ふふ…。」

とセイがお酌をしようとした時、不意に手首を掴まれ銚子を取り落とす。驚いたセイが土方の方を向いた時、強い力で引っ張られて強引に唇を奪われた。とっさの事にどうしていいのか解らず、かわす事も応える事も出来なかった。漸く放されてセイは油断した…と荒い息で土方を睨みつけた。土方はそれすらも心地良さげにまた不敵な笑みを浮かべ

「高い買い物をしたんだ。これくらい貰ってもバチは当たんねえだろ。総司に言うか?」

とほんのり紅が付いて濡れた唇を舐めた。そして脇差を持ってすっと立ち上がり

「言っとくが平穏な暮らしはねえからな。それからぼやぼやしているヒマもねえ。早速だが働いて貰う。新選組の為にだ。後で迎えを寄越すから首洗って待っていろよ。じゃあな。」

と部屋を出るべく襖に手を掛けた。

「ちょっ…、副ちょ…。」

余りの一方的な物言いにセイが抗議をしようと声を上げた時土方が振り向いた。

「ああ、もうひとつ。件の仕事が片付くまでは総司に会うことも駄目だ。解ったな!」

と止めの一言。セイは思わず転がっていた銚子を投げつけたが、襖はピシャリと閉められ土方に命中することはなかった。部屋にぽつんと一人取り残されて


「ほんっとに新選組って~っ!!!」



とセイの叫びが虚しく花家に木霊した。

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