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相合々傘

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斎藤さんのお花見哀歌
春、爛漫。

京都は一面桜の天井で覆われ、街は花見客で賑わいを見せていた。ピンク色の花びらがひらひらと舞い、おおよそ似つかわしくないこの男の刀柄にも留まり、それがこの男に珍しく笑みを零させる。
「花見か…。」

その男の名は斎藤一。

刀を研ぎに街に刳り出していた彼は、その京都の賑わいを横目に一人屯所への道を歩いていた。
『花は桜木 人は武士』
斎藤もこの花を嫌いではない。散り際の潔さはこの花の様でありたいと思う。そんな花を肴に花見酒と行きたい所だが、どうもこの騒々しさは苦手であった。呑むなら静かに呑みたい。

あの子と呑む以外はな…。

ふと、脳裏に可愛らしい笑顔が浮かぶ。ああ、あの子と花見に来れたらさぞ楽しいだろう。そんな斎藤が思いを馳せる相手は勿論、神谷清三郎。自分を兄と慕う女子のように可愛らしい武士。そんな事を考えていると、ふと色とりどりの和菓子を並べる店が斎藤の目に付いた。

そうだ、土産を買っていってやろうか?

斎藤自身は生粋の辛党で、甘味は一切苦手であったが、清三郎に何か買っていってやろうと思いついた。清三郎の喜ぶ顔が目に浮かぶ。そうして、甘ったるい匂いに少し鼻を歪めながらも店先の売り娘に声をかける。
「その柏餅を貰おうか。」
「へえ、それ桜餅やけど…?」
………!何ィ!?ちょっと淡いピンク色なだけでどっちもあんこは入っているし、葉っぱに包まれているし、敢えて分け隔てて言う程の違いがどこにあるんじゃー!!!!!
…以上、斎藤心のツッコミ。
「柏餅はこちらどすけど…。」
「………いい、それをくれ。」
「ほんまにいんどすか?これ柏餅やのうて桜餅やけど…。」
「…いいといったらいい。」
斎藤は乱れた心をどうにか落ち着かせ、平常心を装う。甘味をほぼ口にした事のない斎藤には、柏餅か桜餅かなどという些細(?)な違いにはまるで興味がなかった。甘味王の総司に言わせれば全く持って言語道断であろうが。ただ、この間違えてしまったという赤っ恥な状況から一刻も早く話を反らせたかった。
「そのみたらし団子も貰おうか。」
…これなら、斎藤でも食える。清三郎が自分ばかりに土産を買ってきてと気兼ねしないようにとの斎藤の気遣いだ。あわよくばそれを二人で頬張りながら花見でもできれば…と少しの下心もあり。
「へえ、焼き団子どすか?」
「いや、そのみたらし団子…。」
「せやから焼き団子でっしゃろ?」
「………。」
よく見れば、そのみたらし団子には確かに『焼き団子』と札書きがついている。………しかし、みたらし団子は間違ってないだろう!!!!!敢えてそれをここまで強烈に否定する理由がどこにあるー!!!???…以上斎藤二度目の心のツッコミ。
「……その焼き団子を貰おうか。」
「へえ、毎度♪」
心中突っ込みながらも斎藤は折れた…。妙な敗北感が斎藤を襲う。

このマニュアル娘がー!!!!!!!(怒)


…お終い。

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幸福論



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続々・無題
 総司が巡察を終え、土方の部屋へ報告に向かう途中、
裏庭から『パン!パン!』と何やら竹刀の響く音が
聞こえてきた。

「…?」

何故道場ではなく裏庭から…?と怪訝に思った総司は
スタッと裸足のまま地面に降り立った。
そしてその垣根の先を覗き見る。
するとそこには不思議な光景が織り成されていた…。

「えいっ!やーっ!!」

「何だそのへっぴり腰はぁ!やる気あんのか!?ああん!?」

…何と自分の息子の颯介と土方が竹刀を
合わせていたのである。
息子の颯介は六つになる。
勿論剣の稽古は総司もつけてやっていたが、
最近どうも自分に頼んでこないと思ったら…。
何と寄りによってあの忙しい土方に頼んでいたとは!
それより何よりその光景は、颯介と幼い頃の自分が
重なって、土方に苛められたあの悪夢の日々が蘇る。

「ひじ…っ。」

総司が声を掛けようと思った瞬間…

「くっそうぅ~っ!やーっ!!!」

「駄目だ駄目だぁ!!そんなんでテメエの親父に
勝てると思ってんのかぁ!?」

「ううぅ…、勝ちます!!!」

………はあ!?

咄嗟に自分の事を言われて総司は二人の前に
出て行きそびれてしまった。
どうやら、息子の颯介は父親である自分に勝つ為に
土方に稽古をつけてもらっているようである。
出そびれた総司は暫く二人の様子を盗み見ることにした。



「よし!今日はこれまでにすっか!」

「ありがとうございましたぁ!!!」

…どうやら二人の稽古は終わったようだ。
二人は縁側に並んで腰を下ろす。
腰掛けた土方は平隊士に茶でも持ってくるように
頼んでいるのか、何やら支持をだしていた。
そしてその平隊士が持ってきた茶を一気に飲み干すと
颯介に言った。

「…で、何でテメエはテメエの親父に頼まないで
俺に稽古つけろなんていってくんだ!?」

それは土方も預かり知らぬところだったらしい。

…そうですよ!稽古なら私がつけてあげるのに…!!

総司も土方に胸中同調した。

「そ、それは…父上に頼んでいたら、
………………父上を超えられませんからっ!!」

…え?

「ほー…。」

土方が感心する。

「親父を超えてえってか?」

「はい!」

颯介は迷いなく即答する。

「…テメエの親父はバカだがな、めっぽう腕は立つぞ。
超えるのは生半可なこっちゃねえぞ。」

土方が諭す。

…土方さん、バカは余計です。

「知ってますぅ…。でも、超えます。」

颯介はたじろぎながらも、決心に揺るぎない事を
土方にその瞳で訴えた。

…颯介…。

総司の胸がジンとする。

「…そうか、わかった。テメエのその心意気に免じて
暫く付き合ってやろうじゃねえか。」

「ありがとうございます!!!」

土方の快諾に颯介は元気よく頭を下げた。

…土方さん…ありがとう、全く優しいんだから。

総司も土方に心中礼を言う。

「だがな、颯介。テメエの超えてえと思っている親父は
腕はめっぽう立つが…。」

「…はいっ。」

颯介は気を引き締めて土方の次の言葉を待った。


「小っせい男だぞ。」


ガクッ!
垣根の上に総司がずぼっとずっこける。

「ひ、土方さ~んっ!な、何々ですか、それ~!!!」

葉っぱまみれになりながら総司は土方に抗議する。

「ち、父上っ!!!」

颯介が思わぬ父親の出現に目を丸くする。

「何でぇ、総司。いやらしい奴だな。
盗み聞きしてやがったのか。」

土方が呆れて返事を返す。

「そんなことより聞き捨てなりませんよ!
寄りによって颯介の前で何てこというんですか!
私が小さい男などと…っ。」

総司は尚も土方に詰め寄るが、

「本当のことだろ。」

とばっさり土方に斬り捨てられる。

「…どーいうことですかぁ?」

颯介が土方にその意味を問うが、

「ま、これ以上はテメエの親父の面目にかかわるから
しゃべらねえでいてやるよ。」

あーはっはっはっはっはっ!と土方は高笑いをしながら
その場を立ち去っていった…。
ポツンと瓜二つな親子が取り残される。

「じィ~っっ。」

「…うっ…。」

不振な目で自分を見上げる息子。


…とっくに面目丸潰れなんですけど…!!!


総司は下方から痛い視線を浴びながら心中毒付いた。










 …それは六年前…。

「わっわっ!何やってるんですか!!!」

信じられない光景に総司が慌ててセイに駆け寄る。

「あ、沖田先生お帰りなさい!!!運動不足もあまりいけない
と思って、ちょっと身体を動かしていたんです!」

セイが元気よく答える。

「はぁ!?だからって、竹刀を振ってることないでしょう!?
貴女ひとりの身体じゃないんですから!!!」

総司がセイから竹刀を取り上げ、あまりの無茶っぷりに
声を荒げた。

「はあ、すみません…。ほんと退屈なものですから…。」

総司が手を貸してセイを縁側に座らせる。
セイはどっこらしょと掛け声をかけた。


そう、セイのお腹はとても大きくて…臨月を迎えていた。


総司とセイは、いわゆる出来ちゃった結婚だ。
経緯は話せば長くなるような、あっさり済む様な話では
あったが、新選組にいたときは、そりゃあもう忙しなく
動いていたセイにとって、この幸せの中にあって、
動きづらい状況だけがどうも馴染めなかった。



「相変わらずだな、神谷…。いや、おセイか。」

総司の後ろには土方が立っていた。珍しくセイを見舞って
総司と一緒にやってきたのだった。

「…神谷でいいですよ。
私も鬼副長と呼ばせて頂きますから。」

セイがニッコリと微笑む。
相変わらず二人の間にはバチバチと火花が散っていた。
総司はその光景にゲラゲラと笑いながら

「あ、私お茶入れてきますね。」

と台所へ向かおうとしているので

「あ、私が入れます!!」

とセイが慌てて上がろうとすると

「いいんですよ、大事な身体です。
セイはそこへ座ってなさい。
土方さんもそこら辺に腰掛けてて下さいね♪」

といそいそと台所へ行ってしまった。

「へえ、嫁はとらねえとか何とかいっていながら、
なかなかどーして、いい旦那してるじゃねえか。」

と土方が感心する。

「そーなんです!もう気持ち悪いくらい何でも
やってくれちゃって、お陰で私身体鈍っちゃいますよ。」

セイがぶーたれる。

「贅沢いうねぇ。」

と土方が男の立場で弟分を庇い立てしてみるものの、
セイは本気で不満に思っている訳ではないらしく

「はい♪」

土方の言葉に珍しく素直に返事をする。

「ちっ。聞いてらんねえなぁ。」

土方が呆れて首をコキコキ鳴らす。
…ようするに惚気(のろけ)であった…。



総司の入れたお茶を三人で飲んでいた。

「ところで、ややの名前は決まりましたか?」

セイが総司に聞いた。

「いいえ、まだなんです。色々考えてはいるんですが
なかなか決まらなくって…。セイは何が良いと思います?」

総司が聞き返す。

「私は…男の子なら沖田先生のお名前の『そう』の字を
入れたいです。」

セイは答えた。

「そうですか。土方さんはどー思います?」

総司は土方に話を振った。

「ああ?俺に聞くなよ。んああ、そーだなぁ。そうだ!
総司の幼名が『宗次郎』だったんだから
『そういちろう』なんてのはどうだ!?」

聞くなと言うわりには、土方はまるでいい句でも
思いついたかのように提案した。

「わあ、いい名前ですねぇ!!!」

自分の意見も取り入れて貰った名前にセイも賛同した。

「だろ?」

珍しく土方とセイが意気投合した。
ところが…


「『そういちろう』じゃ駄目です~!!!!!」



総司ががばっと立ち上がって叫んだ。
総司のあまりの咄嗟の行動に土方もセイも唖然とした。

「…何が駄目なんだよ、総司。」

土方が自分のせっかくの提案を否定されて不機嫌に問う。
総司はう…っとなりながら、
耳まで真っ赤にしてポツリと呟いた。



「だって、だって…『そういちろう』だなんて…
私が『次』だったのに息子が『いち』だなんて…
生まれた時から私を超えられたら困ります…。」



「「…はあ!?」」


土方とセイは声を合わせて叫んだ。

「沖田先生!!!!!普通、父親だったら息子に自分を
超えて欲しいと思うものでしょう!?
何々ですか~っ!?その狭量は~っ!!!!!」

セイは情けなくなって叫んだ。

「いんですよ~!何も名前から超えてなくったって!
要は育っていくうちに超えればいいことでしょう!?
だから『そういちろう』は駄目です~!!!」

と総司は尚も言い訳をする。
土方も呆れ果てて思わず吐き捨てた。

「…総司、器小っさ…。(汗)」






「………うっ…。」

セイが突然青い顔をしてお腹を押さえた。

「どうしました、セイ?」

セイの異変に総司が心配して声を掛ける。

「………///叫んだら…、力入っちゃって…
う、う、生まれる…かも…っっ。」


「「何だって~~~っ!?」」


余りのことに男二人はうろたえた。

「どどどど、ど、ど、どうしましょう!?土方さぁんっ!!!!!」

「ば、ばば、ば、馬鹿野郎!!!
テメエがしっかりしねえでどーすんだよ!!
と、と、とにかく落ち着けっ!!
こーゆー時はあれだ!何だ!!」

「あ、あれって何ですか~っ!!!???」

あたふたする木偶の坊たちに、セイのイライラは
頂点に達し、…ついにキレた。

「うるさ~い!!!」

セイに怒鳴られて土方と総司はビクッとなり、
思わずお互い抱き合った。

「こちとら無茶苦茶痛くて苦しんでるっつーのに、
何々ですか!貴方方は!!!
沖田先生はお里さん呼びに行って!!
副長はお湯沸かして下さい!!!」

さすが孕んでも医者の娘、こんな時でも一番冷静で
激痛の中、セイがテキパキと指示をした。

「は、はい!」

「お、おう!」

二人の大の男はセイの指示通りに
一目散に散って行った。

「全くもう…。あれが泣く子も黙る新選組
ってんだから世も末よね~。」

確かに時代は幕末で…。
セイは痛みに耐え、大きなお腹をさすりながら呟いた。



そんなこんなで無事元気な男の子が生まれ、
採用された名前は『颯介(そうすけ)』である。










「……………。」

…土方さんったら、あんな昔の事をいつまでも…。(汗)

総司が空を見上げて当時の事を思い出す。

「父上ぇ…?」

颯介が総司の袖を引っ張った。

「ああ、颯介。まだまだ父は貴方に超えさせません
からね!覚悟して下さいよ。」

…実はとっても大人気ない理由で
総司はそんな事を言った。

「…でもいつか超えますから!!!」

颯介が総司を真っ直ぐ見据えて言う。

…ああ、こーいうとこセイにそっくりかも。(笑)

と総司は思いつつ颯介の頭を撫でた。

「ふふ、楽しみにしてますよ♪」






こんな父親を息子が超えられたか否かは
まだずっと先のお話です♪



お終い 

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お嫁サンバ

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続・無題
「斎藤さん急いで下さいよぅ!」

「何故…。」

大阪より京都への道を上る二人の男。
新選組の一番隊組長沖田総司と三番隊組長斎藤一である。
二人はこの組合せでは珍しく仲良く(!?)
大阪出張へ出向いた帰りの道中である。

「だって一月ぶりの京都ですよぅ~!!
私もう栞ちゃんに会いたくて会いたくて…!!!!!」

「………。(カミさんじゃないのか…!?(怒))」

総司の物言いに顔つきは変らないが、
斎藤の眉間には怒りの四つ角が幾重にも脈打つ。
もちろん総司のカミさんとはセイのこと、
そして栞とは昨年生まれた総司の長女のことである。
斎藤がセイを密かに好いていた事は過去の事としても
やはりこの男のこんな話は斎藤にとっては面白くない。

「栞ちゃんったら昔の神谷さんにそっくりなんですよぅ!
もう可愛くって、可愛くって…!!!」

「………あんたに似なくて良かったな。
(そりゃ神谷に似ていれば可愛いだろう…!)」

斎藤がうんざりと答える。
それを聞いてか聞かずか総司は尚も続ける。

「ああ、それなのに最近忙しくてあまり家に
帰れなかった上に、大阪へ一月も出張行けだなんて、
全く土方さんったら意地悪過ぎますよ~。」

「………。」

「出張前にね、颯介と栞に『高い高い』をやってあげたら
二人ともとーっても喜んでくれたんですよぅ~vvv
あああ、帰ったらまたやってあげよう…!!!」

「………。」

総司莫迦親っぷり全開。
だんだん斎藤はいちいち返事をする気も起こらず、
もはや総司のでかい独り言になっていた。





「そうだ!斎藤さん屯所に着いて報告終わったら
うちに来ません?」

総司が斎藤を自宅へと誘った。

「…一月振りの家族水入らずにそれはないだろう…?」

それは流石に…と斎藤は遠慮しようとしたが

「遠慮しないで下さいよぅ!
セ…神谷さんも斎藤さんに会いたがってますし、
うちの颯介は斎藤さんが大好きですからね!
颯介は私と男の趣味が合うんですよね~。あははは。」

と総司は笑った。男の趣味って…。
颯介とは総司に瓜二つの分身の長男、第一子だ。

「何より、栞ちゃんが超、超、超可愛いんですよ~!!!」

総司は両拳をぶんぶんと振りながら嬉々として叫ぶ。
…結局それだった。

(超はやめろ…。)

総司の年甲斐のない物言いに斎藤は心中ツッコむ。
かく言う斎藤も確かに人妻になったとはいえ、
久方ぶりにセイの顔が見たかったので

「…いいのか?」

と些か遠慮がちにいうと

「ええ♪夜までにお引取り下されば♪」

と総司は満面の笑顔で止めをさした。





 一方、此方は総司の自宅。

「ふんふんふん~♪」

台所から良い匂いと共に軽快な鼻歌が聞こえる。

「うわ~、おいしそぅ~。」

目をキラキラと輝かせた颯介がこっそりと土間に降り立つ。
そして台所に並ぶ料理をそ~っと摘もうとすると

「め!」

とセイに菜箸で手の甲を叩かれる。

「颯ちゃん、栞を見ててって言ったでしょう!?
父上が帰ってきたら一緒に食べるんですから
摘み食いはいけません!
もう、そーいうトコほんっと沖田先生そっくりなんだから!」

セイが息子を嗜めるが

「でも母上ぇ…いつもよりとってもとっても一杯で豪華ですぅ。
お正月でもこんなご馳走見たことないですぅ。」

との颯介の以外と鋭いツッコミに

「あ、あらそう!?ちょっと作り過ぎちゃったかなぁ…?」

とちょっと図星を突かれて冷や汗を流すセイだった。
総司が一月ぶりに帰ってくる。
セイは目茶目茶張り切っていた。





「ただいま帰りましたよ~。」

総司が玄関の戸をガラガラと開けて入っていくと

「お帰りなさいませ、旦那様!」

セイはもう玄関先に座して待ち構えていた。

「斎藤さんも連れてきちゃいました。」

「…すまんな。おセイさん。」

斎藤が申し訳なさそうに頭を下げるが

「あ、兄上!お久しぶりです!清三郎でいいですよぅ!(笑)
ようこそいらっしゃいました!
ぜひお夕飯食べていって下さいね。」

セイは嫌な顔一つせず、むしろ久方ぶりの斎藤との再会に
華の様な笑顔で答える。

(やはり、かわいい…。)

人妻に拙いと思いながら斎藤の胸がドッキュンと高鳴る。
セイの女子姿は男装している時から何度も夢に見るほど
想像していた、ちょっと危ない斎藤であったが
本物は想像以上の美しさであった。そこへ、

「父上、お帰りなさいませ!
うわーい!斎藤さんこんにちはー!!」

セイに暫し見とれていた斎藤に颯介が飛びついた。
颯介は本当に斎藤によく懐いていた。
総司に気持ち悪いほど瓜二つなのはちと気になるが
セイの子だと思えば可愛くない筈はなかった。

「…セイ、栞…栞は!?」

キョロキョロと総司が辺りを見回す。
セイもハッとして自分の背に振り返る。

「え、あ、栞…?」

栞はセイの着物を掴んで後ろに隠れてジっと総司を見ていた。

「あ、栞ちゃんvvv会いたかったですよぅ!…って栞ちゃん?」

栞を見つけて総司は笑顔全開で手を広げるが
栞は一向にセイの後ろから出てこようとはしなかった。

「どうしたの?栞?お父上ですよ?」

セイも栞に声を掛けるが、まるで知らない人を見るかの様に
栞は総司を警戒して、近づこうとはしなかった。
暫しの沈黙が流れる。


……………。


その沈黙を破ったのはハタから見ていた斎藤である。

「…もしやご息女はあんたを忘れているんじゃないか?
あまりに家に帰らなかったからな…。」

斎藤の冷たいツッコミに

「そ、そんなぁ~!!(泣)」

総司はショックのあまり絶叫した。





 総司はかなりいじけていた。

「…あんなに『高い高い』してあげて喜んでたのに、
私の事忘れちゃうなんて酷過ぎます…。
私はこれっぽっちも忘れた事なんかないのに…。」

イジイジと畳にのの字を書く。
栞はまだセイの背から出てこない。
総司の『高い高い』という言葉を聞いて、
斎藤の膝の上に座っていた颯介が
思い出した様に総司のところに寄ってきて

「父上ー!『高い高い』して下さい~!」

と強請ってきた。
いじけていた総司もようやく息子には懐かれて
少しだけ機嫌を取り戻し、

「…はいはい、では行きますよ。高い高い~!」

と颯介を天井近くまで持ち上げた。
高く持ち上げられてきゃっきゃと颯介が喜ぶ。
その光景を見た途端、栞の顔つきが変った。

「…栞?」

今までセイの背から一向に出てこなかった栞が
つてつてと総司に近寄っていったのだ。

「…栞ちゃん?」

総司も娘に恐る恐る声を掛ける。
すると栞は近寄って来たかと思うと
くるっと総司に背を向けて両手を広げた。

「こ、これは…!!!」

総司の喉がごくっと鳴る。
まだしゃべれない栞の
『高い高いをしてくれ』ポーズであった…。





「あははははははははははっ!
あ~、お腹痛い~っ!あははははっ!」

「…笑い過ぎですよ、セイ…。」

「…つまりあんたは自分の娘に
『高い高いをしてくれるおじちゃん』としか
認識されていなかったようだな。」

「…冷静に分析しないで下さいよ、斎藤さん…。」

総司が脱力しながらも二人に突っ込みを入れる。
しかし総司が『高い高い』をしてやっと初めて
栞の記憶に蘇ったのは確かのようである。
全く忘れられていた訳ではなかった様だが、
総司の心境は複雑だった。
散々『高い高い』をしてもらって遊び疲れた栞は
漸く警戒を解いて総司の膝の上で眠っていた。

「…栞にはまだ先生のお仕事が理解できないだけ
なんですから許してあげて下さいね。」

セイが優しく総司を慰める。
自分の父親に対するほどではなかったが
セイには栞の気持ちが少し解る。
自分は父の仕事を、その高い志を理解できずに
17年も過ごしてしまった。
それが今は少し悔やまれるけど…。
だが家にあまりいない総司を忘れてしまっていた栞を
とても責める事は出来ない。
彼女もいつか父の仕事を理解する時が来るだろう。

「解ってます…。寂しい思いをさせてしまってますから…。」

総司が愛しいわが子の髪を撫でながら言った。





 斎藤も屯所へ戻り、二人の子供も寝静まった頃…。

「ぷっ…うふふ…っ」

未だ思い出し笑いをするセイがいた。
流石に総司に悪いと思ったがどうにも止まらなかった。

「…まだ笑いますかねぇ…。」

総司がむっとする。

「申し訳ありません、旦那様…。でも…ちょっといい気味。

セイがポツリと呟く。

「は?」

その小さな呟きを総司は聞き逃さなかった。

「それどういう…。」

妻の信じられない言葉に総司が詰め寄ろうとした時、
セイが観念して白状した。

「だって、総司さんったら栞の事ばっかりなんですもの。」

べーっとセイが赤い舌を出す。

「…何だ、妬きもちですか?莫迦ですねぇ…。」

総司がふっと笑ってセイを抱きしめて優しく口を吸う。
二人の夜はこれから。




お終い。

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夫婦絵

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無題
 丑の刻、誰もが寝静まった頃…。
そろり、そろりと闇夜に紛れて動くものが一人。
暗闇に更に黒ずくめで身を隠し、
音を立てずに忍び寄る…。

 ここは新選組屯所近くの一軒家。
その者、その家の主に断りもなく裏庭より進入し、
勝手に上がりこむ。
玄関から入ってこないばかりか、
訪れる時間も非常識極まりない。
……要するに盗人である。
その男はは誰もいない部屋の襖を音を立てぬように
細心の注意を払い侵入する。
すると部屋の片隅には箪笥。
男は更に忍び足でそれに近づく。
そして箪笥の引き出しに手を掛けようとした時…。

「どなたです!?」

ガラッと障子が開いて、誰かが男に声を掛けた。

「ちッ!」

男が舌打ちをする。
音を立てたつもりはなかったのに、
どうやら家の者に見つかったようだ。
余りに暗闇で、部屋は月明かりがわずかに
射す程度で家の者の影しか判別つかないが、
…先程の声はどー聞いても女子。
ならば、ここを切り抜けることは容易い。
仕事をしないで帰るのは本意ではないが、
見つかっては仕方がない。

「しゃらくせい!」

男は懐の短刀を抜いて女子に斬りかかった…筈だった。

「あ、あれ…?」

たった今障子を開けて立っていた女の姿は忽然となく、
男は大きく空を斬るに留まった。
その瞬間、暗闇で何かがキラリと光ったと同時に、
男の首筋にひやりとした感触。

「…ここが新選組一番隊組長沖田総司宅と
知っての狼藉か?」

背後で先程の女子の声がした。
しかしまるで別人であった。
男が首に感じた冷たい感触はどうやら簪の様である。

「あわわわわわ…っ。」

男はようやく状況を理解して、口篭る。
簪は男の首の皮一枚のところで止まっていた。

「その度胸は敬意に値しますが、
命はいらないと見えますね。」

鈴の鳴るような声に似合わぬ台詞を尚も呟く。
男の首筋からは、つ…と一筋赤い雫が流れ男は
恐怖のあまり一歩も動けなかった。

「ひぇ~っ何だこの女~っっ。」

男は真っ青になって半ば半べそで叫んでいた。
そこへゆらりと障子の向こうから灯りが見えてきた。
灯りは足音と共に徐々にその部屋に近づいて、
開いた障子のところで止まる。

「…セイ…。」

ロウソクを持った男がげんなりと呟く。
彼の持つ灯りによって
盗人と女の顔が浮かび上がった。
途端に女の顔が綻んだ。

「あ!旦那様!賊を一匹捕まえました~!!」



 旦那様の名前は沖田総司、
奥様の名前は旧姓富永セイ…現在は沖田セイ。
彼らはごく普通(?)に恋に落ち、
ごく普通(??)の祝言を挙げました。
ただ…一つだけ普通でなかったのは…



奥様は新選組隊士だったのです。(笑)



「あなたねぇ…。こーいう時は一応私を呼びなさいよ。
私も夫としての立場ってもんが…。」

総司がくどくどと説教している側で、
セイはテキパキと盗人を布団で簀巻きにしていた。

「…?なぜですか?先生の手を煩わせるほどの
輩ではありませんでしたよ?」

セイが首を傾げながら答える。

「母上かっくいー!!!」

騒動に目を覚ました長男・颯介(そうすけ)が
目を輝かせながらパチパチと手を叩いた。
颯介は昔の総司にそっくりである。
それは本当に総司の息子だと
疑いようもない程で…(笑)

「ん!ありがと颯ちゃん♪」

息子の声援に得意げに答えるセイだった。
その光景に泪しながら

「うう…栞ちゃん…
貴女はおしとやかに育って下さいねぇ…。」

総司は腕に抱いている長女・栞にすん、と擦り寄った。
妹の栞はこれまた昔のセイにそっくりだった。

「ちちうえ…いいこ、いいこ…。」

栞は小さな手で哀れな父親の頭をそっと撫でてやる。
幼い娘に慰められる総司だった。

「もう、もう、
栞ちゃんったら可愛過ぎますぅ~!!!」

更に娘をギュッと抱きしめる。
娘をちょっと溺愛しすぎなバカ親総司であった。



 …すっかり簀巻きにされながら、
存在を無視されかけた盗人が総司に向かって叫ぶ。



「てめーッ!

女房にどんな教育

してやがんでぃ~!!!」

負け犬の遠吠えが辺りに響いたとさ。


お終い。
 

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恋はめんどくさい?
とある街道を東へと急ぐ小さな影。

「遅くなっちゃったなぁ…。」
大きな風呂敷包みを抱えた宗次郎が小走りに道を急ぐ。
「早く帰らないとまたおかみさんに怒られちゃう…。」
この時は取るに足らぬ事ではあるが、この少年の足の速さ、
彼の齢にしては些か尋常ではなく、後の彼の気質を思わせたが、
それはまた別の話。さて…。
宗次郎が街道沿いのとある神社に差し掛かった時、
「…セイ!」
大きな声が聞こえてふと足を止める。
「ついて来ては駄目だと云ったろう!」
神社の門前で小さな兄妹が何やら問答しているのが見えた。
その後ろで神主がほうきを持ちながらやれやれ…
という面持ちで二人を見ていた。
そこを通る参拝客も微笑ましく眺めている。
「遊びに行く訳ではない。父上の大事な使いなのだ…。」
「嫌です~!!!セイも兄上とゆきますぅ~!」
どうやら兄が小さな妹を嗜めている様だった、が。
「あ…。」
彼がその小さな方に目を留めた途端、ふと驚きのあまり、
ついぞ声が出てしまった。
あの子…八幡様で会った…。

桜の精…。

と、思うが同時に小さな方がバッと宗次郎の方に振り返る。
先程の彼の声が聞こえた様だった。
え…?
とっさに振り向かれ、宗次郎は少女と目が合い、
ドキリとする。
彼女の大きな目には大粒の泪。
「ん?どうしたセイ?」
すると妹の様子を伺って、兄の方も宗次郎を見やる。
二人に怪訝に見つめられた宗次郎は、よろよろと近づき、
バツが悪そうに声を掛けた。
「あ、こんにちは…。」
そして、えへ…と眉を顰めて笑いながら挨拶をしてみる。

「あ!!」
今度は少女の方が叫んだ。
彼女の方にも辛うじて微かにまだ記憶に残っていた様だ。

(誰…?)
妹の様子に兄が少し驚いて疑問を抱く。
が、これは好都合とばかりに宗次郎に声を掛ける。
「やあ、セイのお友達かい?」
「はは…。」
友達…といえるのだろうか?
市谷八幡で迷子同士ちらっと会話を交わしたことがあるだけだった。
少女のマジマジと見つめる視線が痛くて、
宗次郎は返事をする訳でもなく愛想笑いをする。
「ちょうど良かった。
小半時、この子とこの神社で遊んでやってくれないか?
神主さんもおられるし。
用事を済ませたら、すぐに迎えにくるから。」
兄の言葉にガン!と少女はショックを受ける。
兄は自分を置いて行こうとしていたのが分ったからだ。
「え、あ、はい!」
そして宗次郎も思わず良い返事をしてしまった。
「私はセイの兄の富永祐太郎と申します。君は…?」
武家の出なのだろう。
祐太郎と名乗る少年は礼儀正しく名乗った。
齢は宗次郎よりも少し上の様だが、末っ子と兄の違いだろうか。
二人の行儀の差は歴然だった。
「あ、お、沖田宗次郎です!!」
宗次郎も慌てて名乗った。
「…では宗次郎殿。妹を…セイを宜しく頼みます。」
祐太郎が頭を大きく下げる。
「は、はい!」
宗次郎もピシッと背筋を伸ばして答えた。
そして、大変な事を任されてしまった…と内心ドキドキするのだった。
「あにうえ~~~。」
祐太郎の袖を掴み、妹のセイが更に泪をためて訴えるが、
「いい子にしているんだよ、セイ。すぐに迎えに来るからな。」
祐太郎はセイの頭を撫でて優しく云った。
きっと彼も可愛い妹を託すのには多少の引っ掛かりはあるだろう。
そして頭を撫でた手をそっと離し、セイを残し立ち去った。
「あにうえ~…。」
ポツンと残されたセイはいつまでもいつまでも
祐太郎の背を見送っていた。


 寂しそうな彼女に何て声を掛けて良いものか、
暫く悩んでいた宗次郎であったが、意を決して声を掛ける。
「と、とりあえず何して遊ぶ?」
すると今まで泣いていた彼女がそれには答えず、
くるりと宗次郎に背を向けてスタスタと歩き出す。
「…ってドコいくの!?」
宗次郎が彼女の後を慌てて追う。
「せっかく神社にいるんだもの。お参りするわ!」
泣いたカラスが…もう、怒ってる?
宗次郎は彼女の横に並んで歩いて顔を覗く。

ほんと…お人形さんみたいな子だなぁ…。

セイの真っ直ぐな黒髪と大きな瞳は
正に日本人形の様に愛らしかった。
境内に着くとセイはガラガラと鈴を目一杯鳴らし、
パンパンと拍手を大きく打つ。
でも、やる事豪快だけど…。
宗次郎は思うが口には出さなかった。
こんな小さくても気の強い子だもの、殴られるかも…
とヒヤヒヤした。
「じゃあ私も…。」
せっかくなので宗次郎も一緒にお参りをすることにした。
彼女の横で一緒に手を併せる。神仏に願う事は…

立派な武士になれますように。

若先生のように強くなれますように!

そして歳三さんに勝てますように!!!!!←大本命。

一通り、心に願い事を唱えた後、
宗次郎はちらりと片目を開けて横を覗く。
セイは目を閉じて今だ手を併せていた。

…かわいいなぁ。
何をお願いしているのかな…?

宗次郎がそう思うと同時にセイが突如叫んだ。
「兄上のお嫁様になれますように!!!」
その大きな声に宗次郎はギョッとしたが、
「な…。」
それよりも何よりもセイの願い事の方が彼の心に引っかかる。
なんだろう、このもやもやした気持ち…?
そうだ!この子は勘違いしている!教えてあげなくちゃ!!
そう思って宗次郎はセイに声を掛けた。
「きょ、兄妹はケッコンなんてできないんですぅ~。」
宗次郎の言葉は何故か意地悪口調になってしまっていた。
「できるもん!」
ガンッと頭にきたセイが宗次郎に噛み付いた。
「できない!」
負けじと宗次郎が言い返す。
「できる!」
セイも負けてはいなかった。
「で~き~な~い~!」
「で~き~る~!」
「こ、これ…。坊たち…。」
見かねた神主が声を掛けるが二人の間にはとても割って入れず…
二人は夢中で言い合った。
あまりにもセイが頑なものだから、宗次郎のイライラは絶頂になり、

「できないったら!!!」
と殊更大きな声で否定してしまった…。すると…
「うわあああああぁ~ん!」
とうとうセイは泣き出してしまった。セイの嗚咽が境内中に響き渡る。
一斉に参拝客が二人に注目する。
「えっあ、ごめん、泣かせるつもりじゃあ…っ。」
はっと我に返った宗次郎が慌ててセイを慰めようとするが、そこへ…
「おい!ソージじゃねーか!!こんな所で何してやがんでぃ?」
聞きなれた嫌~な声がして、宗次郎は恐る恐る振り返る。
その声の主は…。
「歳三さん!!」
歳三が偶然通りかかって声をかけてきた。
行商の途中なのか背には石田散薬の薬箱と幟。
「お、いっちょ前に女泣かせてやがんのか!?生意気な。」
ニヤニヤと宗次郎を冷やかす。
女泣かせではこの男に適う者はちょっといまい。
「え、違…っ。」
慌てて否定する宗次郎だが、実は違わない。
それでも尚、言い訳しようとする宗次郎の頭を鷲掴みに押しやり、
歳三は今だ泣き止まぬセイに声を掛けた。
「悪ィな、嬢ちゃん。こいつは女心がわからなくていけねぇ。
そんなに泣いたらせっかくの別嬪さんが台無しだぜ。」
百戦錬磨の台詞…の筈だった。
が、幼女には十年早かったらしく…
「びえぇ…鬼が出たぁ…こわいよぅ…!」
セイが歳三の風貌に怯えて更に泣き出した。
「誰が鬼…っ。」
「や…。」
セイが恐怖の余り、ギュッと目を瞑る。
何といっても二枚目で通していた歳三だ。
子供とはいえ女子に嫌がられたのが癪に障って、
大人気なく歳三が声を荒げようとした時…
「お、何だソージ?」
宗次郎が自分の背にセイを隠す。
怒鳴られると思って瞑った目をセイは今度は驚いて大きく見開く。
宗次郎の小さな背でも、もっと小さな彼女には大きく見えて…。
「いくらこの子が可愛いからって
歳三さん手を出しちゃ駄目ー!!
ついでに泣かせちゃダメ~!」

宗次郎が張り叫ぶ。
「誰が出すか!!!ってかお前が泣かせてたんだろが!」
そしてその言葉に更に青筋を立てた歳三が大人気なくツッコむ…。
しばらく睨み合いが続いていたが
「え…?」
ふと宗次郎の背中の着物を掴まれる。
歳三との言い合いに夢中になっていて彼女の事をふと忘れていたが。
そこには宗次郎の着物を掴んで彼に頼る彼女の姿があった。
宗次郎は初めて女子に頼られて、ほんわかした気持ちになる。
そして照れたようにセイに声を掛けようとした時…
「あ、あの…。」
「あ!」
だー!とセイが宗次郎の背を離れて駆け出した。
「えええっ…!?」
宗次郎が言の葉の先の行き場がなくなってしまった。
「兄上~!!」
その先には祐太郎がセイを迎えに立っていた。
「セイ、遅くなってすまない。いい子にしてたかい?」
「あにうえ~!」
セイは嬉しさの余り祐太郎に飛びついた。
それをしっかり祐太郎は受け止める。
彼女の中に確かに芽生えたものがあったに違いないのに、
それは最愛の兄の出現にいとも簡単に吹き飛んでしまっていた…。
あっけに取られた宗次郎はしばし放心状態になって石化してしまった。
「お?」
歳三も拍子抜けで間抜けな声を出した。



 祐太郎はセイを連れて宗次郎と歳三に一礼して立ち去って行った。
セイは今度は兄の背に隠れてしまって
宗次郎と少しも目を合わすことはなかった。
宗次郎の心にはぽっかりと大きな穴。



 カラス鳴く夕焼けの中、二人はトボトボと試衛館への道を帰っていく。
「よお…見事に振られたなぁ、ソージ。」
歳三が慰めるでもなくからかうでもなく宗次郎に声を掛ける。
「そんなんじゃないですってば!」
宗次郎が否定するが強がりにしか聞こえなかった。
「…で、何でまたあの子泣かせてたんだよ。
女泣かすなんざ十年早ぇんだよ、ソージのクセに。」
「そ、それは、だって…。」
あの子ってば、私と一緒にいるのにお兄さんのことばかりいうんだもの…。
あまつさえ…お、およ、お嫁様だなんて…っ。

…あの子がお嫁様になったら、さぞ可愛いんだろうなぁ…。

そこまで考えて宗次郎はぶんぶんと頭を振る。
「いいんです!私は剣術に生きるって決めましたから!
女子など修行の邪魔です!」
「へえぇ、そーかよ。生意気な。」
歳三が宗次郎の頭をぐりぐりと小突いた。



「あ!」
宗次郎がまた急に叫んだ。
「今度は何だよ!?」
歳三が聞き返す。

そうだ、ほんとはあの時のお礼を云う筈だったのに
本当に何で泣かせてしまったんだろう?

『私は貴女のお陰で泣き虫を卒業できたんです。
こんな私でもいつかは公方様のお役に立てるんだと
信じられる様になったのは貴女のお陰なんです…。』

彼女に誓った言葉を心に繰り返す。
「…秘密です。」
でもそれは口にしちゃいけない内緒の誓い。
「変なヤツだな…。」
歳三が呆れて溜息を漏らした。

今度会ったら絶対に云おう。


――――――また会えるかしら?




お終い。
 

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風光る京都~傷跡~ 番外編 居続け総司


いたずらは許して

あなたに構われるがために

ここに来ているようなあたしを





 セイの膝枕の上でまどろむ総司に襖の向こうから水を挿す声。



「へえ、ごめんやっしゃ。沖田はん。」

「…はい?」

急に現実に引き戻されて総司が怪訝に返事を返す。

「お楽しみのところ申し訳ありませんがお時間ですよってに。」

「ああ、そうか。」

総司がむくっと起き上がってセイと目を合わす。

「沖田先生…。」

セイが名残惜しそうに総司を見つめていた。その仕草が可愛くて、総司は後ろ髪を引かれ捲った。そしてまたごろんと寝転がり、セイの膝に頭を乗せて

「まだ帰りたくないなぁ…。」

と駄々っ子の様に呟いた。

「…先生?」

セイがもう一度たずねると総司は上目遣いで言った。



「すみません…今晩は泊めてもらえませんか?」










「沖田先生、これ羽織って下さいな♪」

セイは居続ける総司の為にいそいそと着物を用意した。

「これ…ですか?」

総司はセイの用意した着物を見て眉を顰める。

「ええ、先生のお着物は掛けておきますので、どうぞこちらにお着替え遊ばして♪」

心なしかセイの口調は楽しげで。

「…はあ。でもこれ、女物に見えるんですけど…。」

「ええ、そうですよ!私の着物ですから。ここでは女物を着るのが粋なんですよ~♪♪♪」

セイが嬉々として答える。

「へえ、そんなもんなんですかねぇ…?でも私女物なんて似合わないと思うんですけど…。」

やはり総司にはちょっと抵抗があるようだ。それでもセイは食い下がる。

「そんな事ありません!先生はきっととってもお似合いになりますよ!!!さあ、さあ早くお着替えになって遊ばして!」

じれったい総司にセイは鼻息荒く総司の着物を脱がせにかかった。

「わあ、自分で着れますよ!…にしても何か太夫嫌に楽しそうじゃありません~!?」

総司が真っ赤になりながら、慌ててセイから着物を取り上げる。

「うふふ、そんなの先生の気のせいですってば♪♪♪」

そうして無理矢理女物に着替えさせられる総司であった…。










「…ぷ…、いやん沖田先生スッゴイお似合いですぅ~!!!」

セイが少し涙目になりながら口を押えて言う。細身だが背丈のある総司に、そのきつめの赤い衣装は妙な味わいを醸し出す。

「…太夫、顔が笑ってますよ。どうせヒラメ顔にはこんな派手な着物おかしいんでしょうよ。」

総司が不機嫌に卑屈になって答える。

「そんな事ありませんって!とっても素敵です!…
うふふっ。」

セイは笑いを堪えながら、また奥から何かを持ってきた。そして少し膨れている総司に

「さ、先生ここにお座りになって!」

と自分の前をペチペチと叩き、座るよう即す。

「今度は何です…?」

すっかりセイのペースに呑まれて総司は渋々腰を下ろす。

「目を閉じて下さい。私がいいと言うまで決して目をお開けにならないで…!」

先程とは打って変わってセイの真剣な眼差しに、総司は思わず言う通りに目を閉じる。

「…こうですかぁ…!?」

「しっ!しゃべらないで…。」

すると総司の鼻先にふっとセイの吐息がかかった。総司はそのくすぐったい感触に背筋がぞくりとした。多分目の前にはセイの顔が間近にあるに違いない。目を閉じている分、その想像はあれこれと膨れ上がり総司を興奮させる。

(太夫、もしかして…。)

総司はセイが次にするだろう行動に胸躍らせて、生唾を飲んで唇をきゅっと引き締めた。

「…そうそう、口はそうやって引き締めて…。」

何だかセイの物言いは淡々としている様に感じるが、意地っ張りのセイの事だ。きっと照れているに違いない。何しろ二人はつい先程通じたばかりなのだから。

(まったく、照れ屋なんだからぁ…。)

と総司が心中ゴチた時、唇に何かが触れる。それは想像した暖かくて柔らかいもの…ではなくて、何だか冷たい。

(ん…?)

総司は予想と違う感触に訝しげに思う。

(あれ…?太夫の唇ってもっと…。)

つい先程味わったばかりのセイの唇を総司は必死で思い出す。それは暖かくて柔らかくてとても甘い…。と、そこまで考えて

「はい!いいですよ!!目ェ開けて下さい!」

とセイに意識を戻されて、総司は慌てて目を開けた。

「もう終わりですか!?」

総司がうっかりセイに聞いた。セイも総司の思わぬ反応にちょっと驚いて答える。

「え?もっとして欲しかったですか?先生お嫌かと思って…先生が良いのでしたら、もっとちゃんと白粉までつけたのに…。」

「はい!?」

どうやら二人の会話は噛み合っていない様だ。総司は訳がわからずうろたえる。総司は首を傾げながら

(いったい何だったんだ…?女子ってわからないなぁ…。)

そうして普段女心に疎い自分をこの時ばかりは呪った。そんな男心を察しない総司に負けず劣らず野暮天女王セイは

「じゃ~ん♪」

とにっこり笑って総司の前に手鏡をかざした。自分の姿を映し出されて、総司は目の前が一瞬真っ白になる。



「何じゃこりゃ~!!!???」



総司の唇には真っ赤な紅。総司は女物を着て、紅まで注されてすっかり女装させられていた。

「きゃ~vvv先生可愛いですぅ~vv」

セイがパチパチと手を叩いて喜ぶ。総司はセイのいい玩具になっていた。

「……………太夫。ちょっと悪戯が過ぎません!?」

総司がむっとしてセイに詰め寄る。

「悪戯じゃありませんよ!ここでは女物着て紅まで注すのが粋なんです♪」

セイがしれっと言う。が、

「…嘘でしょう。」

流石の総司にもそれくらいはわかる。女子に弄ばれて、総司の中の鬼再び再発。(笑)

「…先生?」

総司の顔つきが変ったことに、セイがハタッと気付いた時にはもう時既に遅し。

「…人に紅注している場合ですか?貴女の紅はすっかり取れてしまっているのに…。」

総司が低い声で呟く。

「え、あ、すみま…。」

セイが慌てて鏡を見るが、総司はその手を取って強く引き寄せる。

「あ…。」

その痛いほどの力にセイは鏡を取り落とす。

「…でもそれも私のせいなんですけどね。」

そう言って総司がにやりと笑った。それはあまりにも冷ややかで、その凄みにセイの体が強張る。紅を注している分、総司の姿は更に怪しく見えて…

「せんせ…。」

と言うと同時に総司に押し倒されて馬乗りになられた。あまりの突然のことに今度はセイがされるがままになってしまっていた。そして顎を取られて強引に唇を押し付けられた。

「んぐ…ふ…っ。」

それは自分の全てを押し付ける様に、セイの全てを吸い取る様に、貪る様に痛いほどに強く激しく長く…。あまりの激情に愛液が端から流れ出ても尚も続く。これ以上は窒息してしまいそうなほどの長い口付けに、セイがもがき始めて漸く開放された。

「…ほら、紅つけてあげましたよ♪」

激しい口付けに未だ息整わずに言葉を発せられないセイに対して、総司がにっこり笑って言った。しかしその瞳は当然、本当に笑っている訳ではなく…

「これで終りじゃありませんからね。夜は長いんですから。」

この男、普段おちゃらけている分、キレると怖かった。てゆーか、キレなきゃコトに及べないのかも…とセイは少し思ったり。先程は可愛いと思えた総司の女装が、今は妖艶で妙な色香まで醸し出して…。



結局のところ、セイは自分の悪戯心を少し呪う羽目になったとか。(笑)




おちまい。
 

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