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風光る京都~傷跡~ 最終話 またか…(笑)神谷清三郎誕生! 
「……こんな所で何をしているんです…?」

超不機嫌な総司のくぐもった声が響く。

「だって私まだ一応新選組預かりですから!少しでも皆さんのお役に立ちたくてこうして賄い方さん達のお手伝いをしているんです!!」

セイが元気いっぱいに答える。周りの賄い方は華の出現にでれでれだ。総司は堪らずセイの手を引いて外へ連れ出す。

「何考えているんですか!!こんな男所帯に女子の分際で、無防備にも程があります!…それに何です、その格好は!」

わなわなと総司が指を差す。

「ええ、ですから男装してるんです!変ですか?」

彼女が嬉しそうに答えるその姿は流石に月代は剃ってはいなかったが、長い黒髪は後ろにまとめて高く結わき袴を穿いていておおよそ女子がする様な格好ではなかった。セイは袖を掴みながら総司の前でくるりと一回転して見せる。艶やかで真っ直ぐな黒髪は風になびき、袴の裾がひらりと翻る。それはまるで役者絵から飛び出してきた美しい若衆の様でその仕種は実に可愛らしかったが、総司は惚けている場合ではなかった。

「そりゃ可愛いですけど…ってそういう問題じゃな~い!」

ぶんぶんと総司が頭を振る。そんな総司を無視してさらにセイは張り切って言葉を続ける。

「ですからご心配下さるならどうぞ沖田先生、私をビシビシ鍛えて下さいね!剣術は兄上と稽古してしましたし、新選組の方々にはまだまだ足元にも及ばないでしょうけど、その辺の殿方には負けない自信はあります!いずれ皆さんにも追いつける程に清三郎は強くなりとう御座います!」

(そして沖田先生を護れるくらい強くなりたい…!)

あまりのセイの張り切りぶりに総司はげんなりとする。

「あのねぇ、おセイちゃん…。」

「あ、今日からセイではありません!神谷清三郎と名乗りますので、先生もどうぞそうお呼び下さいね!」

嬉々と名乗るセイにぶちっと総司の中の何かが切れた。

「……そうですか。では神谷さん…私の稽古は荒く容赦がないと評判ですから覚悟して下さいね…。」

「…はい。」

只ならぬものを感じてセイの咽喉がゴクッと鳴る。










隊士連中が見守る道場の中、二人は稽古していた。

「…もう終わりですか?神谷さん…。」

(鬼~~~!!!)

隊士たちの心の叫びは総司に届くハズもなく。

「い、いいえ!まだまだぁ!」

総司にコテンパンにのされたセイがフラフラになりながら立ち上がろうとするが、足がもつれて思いっきり転んでしまった。涙を拭いながら尚も立ち上がろうと頑張るが総司に打たれた所と転んでぶつけた所が見事に紅く腫れ上がって痛々しい。皮肉にもその紅はセイの白い肌には一層映える。堪らず総司にぶちのめされる覚悟でセイに懸想した隊士たちが一斉に駆け寄ろうとするが、それは当の総司によって阻まれる。

「手出し無用です。神谷さんには指一本触れないで下さいね。」

と違う意味でも『私の神谷さんに手出し無用』と宣告され隊士たちが固まる。笑顔で言われるから一層恐い。そうして総司はセイに近寄ると

「だから言ったでしょう?」

と耳元で呟きセイを抱き上げる。目を潤ませながら真っ赤になって何も言い返せないセイに総司は続けて

「今日はとても動けないでしょうけど、今夜だって容赦しませんから。」

と止めの言葉を刺した。

「先生の助平!」

セイの渾身の一撃がパン!といい音を響かせて総司の左頬にクリンヒットした。しかしそんな事に全く怯む事無く総司はさらに凄む。

「おや、まだそんな元気がありますか?今度こそ腰たたなくして上げますからね…。…いてっ。」

抱き上げられているセイが総司の首元にしがみついた。総司はセイが観念して抱きついているのだと一瞬糠喜びしたが、総司の背中に小さな痛みが走る。セイが最後の抵抗とばかりに総司の背中に爪を立てたのだ。総司の眉がにわかに歪む。






何度も振り回されて怒って傷ついて

でもあたしちょっとだけ

ひっかいてひっかいて

消えない跡残す口元ゆるんだ






「な~にやってんだか…あいつらは。」



呆れ顔の土方に大いに涙を流す斎藤、そして何度総司にのされようともちょっかい出す気満々の長倉。原田、藤堂の三人組。ある意味まだまだ平和な時の新選組のお話。屯所内では桜の木は新緑が芽吹き初夏の訪れを告げようとしていた。こんな若人たちにももうすぐ熱い季節がやってくる。










当の二人は人気の無いところに着いても懲りずに今だ小さな攻防戦を繰り広げていた。ふいに総司が抱き上げているままのセイの胸に顔を埋める。

「ちょっ…、沖田先生…!?」

「…ほんとにもう。私以外の誰にも心許さないで。さもないと私どんどん意地悪になっていっちゃいますよ…。」

多分本気で言っている。あまりに勝手な言い草。なんて我侭な恋。でもその声が余りに真剣だったのでセイは一瞬ドキリとしたが、何とか絆されることなく総司の頬をつねって自分の胸から引き剥がす。

「ドサクサ紛れに何するんですか!私だって怒ってるんですから!わ~、ヒラメ顔が余計平たくなっちゃいましたね~!」

「………酷い。人が気にしている事を…。」

「あはははは…。」

総司の脅しに少しも屈しない。今度はセイが真っ直ぐな眼差しで答える。それは微塵の迷いも無く…



「…セイは貴方のお傍にいられる為ならば、他に何もいらないのです。だから…。」






いたずらは許して

あなたに構われるがために

ここに来ているようなあたしを







そうしてどちらからともなく口付けを交わす。







 


「うん。幸せかも…。」





おしまい。




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