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風光る京都~傷跡~ 番外編 居続け総司


いたずらは許して

あなたに構われるがために

ここに来ているようなあたしを





 セイの膝枕の上でまどろむ総司に襖の向こうから水を挿す声。



「へえ、ごめんやっしゃ。沖田はん。」

「…はい?」

急に現実に引き戻されて総司が怪訝に返事を返す。

「お楽しみのところ申し訳ありませんがお時間ですよってに。」

「ああ、そうか。」

総司がむくっと起き上がってセイと目を合わす。

「沖田先生…。」

セイが名残惜しそうに総司を見つめていた。その仕草が可愛くて、総司は後ろ髪を引かれ捲った。そしてまたごろんと寝転がり、セイの膝に頭を乗せて

「まだ帰りたくないなぁ…。」

と駄々っ子の様に呟いた。

「…先生?」

セイがもう一度たずねると総司は上目遣いで言った。



「すみません…今晩は泊めてもらえませんか?」










「沖田先生、これ羽織って下さいな♪」

セイは居続ける総司の為にいそいそと着物を用意した。

「これ…ですか?」

総司はセイの用意した着物を見て眉を顰める。

「ええ、先生のお着物は掛けておきますので、どうぞこちらにお着替え遊ばして♪」

心なしかセイの口調は楽しげで。

「…はあ。でもこれ、女物に見えるんですけど…。」

「ええ、そうですよ!私の着物ですから。ここでは女物を着るのが粋なんですよ~♪♪♪」

セイが嬉々として答える。

「へえ、そんなもんなんですかねぇ…?でも私女物なんて似合わないと思うんですけど…。」

やはり総司にはちょっと抵抗があるようだ。それでもセイは食い下がる。

「そんな事ありません!先生はきっととってもお似合いになりますよ!!!さあ、さあ早くお着替えになって遊ばして!」

じれったい総司にセイは鼻息荒く総司の着物を脱がせにかかった。

「わあ、自分で着れますよ!…にしても何か太夫嫌に楽しそうじゃありません~!?」

総司が真っ赤になりながら、慌ててセイから着物を取り上げる。

「うふふ、そんなの先生の気のせいですってば♪♪♪」

そうして無理矢理女物に着替えさせられる総司であった…。










「…ぷ…、いやん沖田先生スッゴイお似合いですぅ~!!!」

セイが少し涙目になりながら口を押えて言う。細身だが背丈のある総司に、そのきつめの赤い衣装は妙な味わいを醸し出す。

「…太夫、顔が笑ってますよ。どうせヒラメ顔にはこんな派手な着物おかしいんでしょうよ。」

総司が不機嫌に卑屈になって答える。

「そんな事ありませんって!とっても素敵です!…
うふふっ。」

セイは笑いを堪えながら、また奥から何かを持ってきた。そして少し膨れている総司に

「さ、先生ここにお座りになって!」

と自分の前をペチペチと叩き、座るよう即す。

「今度は何です…?」

すっかりセイのペースに呑まれて総司は渋々腰を下ろす。

「目を閉じて下さい。私がいいと言うまで決して目をお開けにならないで…!」

先程とは打って変わってセイの真剣な眼差しに、総司は思わず言う通りに目を閉じる。

「…こうですかぁ…!?」

「しっ!しゃべらないで…。」

すると総司の鼻先にふっとセイの吐息がかかった。総司はそのくすぐったい感触に背筋がぞくりとした。多分目の前にはセイの顔が間近にあるに違いない。目を閉じている分、その想像はあれこれと膨れ上がり総司を興奮させる。

(太夫、もしかして…。)

総司はセイが次にするだろう行動に胸躍らせて、生唾を飲んで唇をきゅっと引き締めた。

「…そうそう、口はそうやって引き締めて…。」

何だかセイの物言いは淡々としている様に感じるが、意地っ張りのセイの事だ。きっと照れているに違いない。何しろ二人はつい先程通じたばかりなのだから。

(まったく、照れ屋なんだからぁ…。)

と総司が心中ゴチた時、唇に何かが触れる。それは想像した暖かくて柔らかいもの…ではなくて、何だか冷たい。

(ん…?)

総司は予想と違う感触に訝しげに思う。

(あれ…?太夫の唇ってもっと…。)

つい先程味わったばかりのセイの唇を総司は必死で思い出す。それは暖かくて柔らかくてとても甘い…。と、そこまで考えて

「はい!いいですよ!!目ェ開けて下さい!」

とセイに意識を戻されて、総司は慌てて目を開けた。

「もう終わりですか!?」

総司がうっかりセイに聞いた。セイも総司の思わぬ反応にちょっと驚いて答える。

「え?もっとして欲しかったですか?先生お嫌かと思って…先生が良いのでしたら、もっとちゃんと白粉までつけたのに…。」

「はい!?」

どうやら二人の会話は噛み合っていない様だ。総司は訳がわからずうろたえる。総司は首を傾げながら

(いったい何だったんだ…?女子ってわからないなぁ…。)

そうして普段女心に疎い自分をこの時ばかりは呪った。そんな男心を察しない総司に負けず劣らず野暮天女王セイは

「じゃ~ん♪」

とにっこり笑って総司の前に手鏡をかざした。自分の姿を映し出されて、総司は目の前が一瞬真っ白になる。



「何じゃこりゃ~!!!???」



総司の唇には真っ赤な紅。総司は女物を着て、紅まで注されてすっかり女装させられていた。

「きゃ~vvv先生可愛いですぅ~vv」

セイがパチパチと手を叩いて喜ぶ。総司はセイのいい玩具になっていた。

「……………太夫。ちょっと悪戯が過ぎません!?」

総司がむっとしてセイに詰め寄る。

「悪戯じゃありませんよ!ここでは女物着て紅まで注すのが粋なんです♪」

セイがしれっと言う。が、

「…嘘でしょう。」

流石の総司にもそれくらいはわかる。女子に弄ばれて、総司の中の鬼再び再発。(笑)

「…先生?」

総司の顔つきが変ったことに、セイがハタッと気付いた時にはもう時既に遅し。

「…人に紅注している場合ですか?貴女の紅はすっかり取れてしまっているのに…。」

総司が低い声で呟く。

「え、あ、すみま…。」

セイが慌てて鏡を見るが、総司はその手を取って強く引き寄せる。

「あ…。」

その痛いほどの力にセイは鏡を取り落とす。

「…でもそれも私のせいなんですけどね。」

そう言って総司がにやりと笑った。それはあまりにも冷ややかで、その凄みにセイの体が強張る。紅を注している分、総司の姿は更に怪しく見えて…

「せんせ…。」

と言うと同時に総司に押し倒されて馬乗りになられた。あまりの突然のことに今度はセイがされるがままになってしまっていた。そして顎を取られて強引に唇を押し付けられた。

「んぐ…ふ…っ。」

それは自分の全てを押し付ける様に、セイの全てを吸い取る様に、貪る様に痛いほどに強く激しく長く…。あまりの激情に愛液が端から流れ出ても尚も続く。これ以上は窒息してしまいそうなほどの長い口付けに、セイがもがき始めて漸く開放された。

「…ほら、紅つけてあげましたよ♪」

激しい口付けに未だ息整わずに言葉を発せられないセイに対して、総司がにっこり笑って言った。しかしその瞳は当然、本当に笑っている訳ではなく…

「これで終りじゃありませんからね。夜は長いんですから。」

この男、普段おちゃらけている分、キレると怖かった。てゆーか、キレなきゃコトに及べないのかも…とセイは少し思ったり。先程は可愛いと思えた総司の女装が、今は妖艶で妙な色香まで醸し出して…。



結局のところ、セイは自分の悪戯心を少し呪う羽目になったとか。(笑)




おちまい。
 

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