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「…何故貴女がその話を知っているんです!?」
セイが切り出したその話は、新選組が密かに監察に調べさせている件だった。二人は静かな茶屋に場所を移していた。セイの話は監察の情報に勝るとも劣らぬものだった。むしろ日付や細かい場所など詰めた段階の話で、新選組が喉から手が出るほど欲しかった情報だ。セイが意を決して男を誘惑し、身を呈して手に入れたものだった。 「………。」 にも関わらず、総司の反応は冷めたものだった。いつものおちゃらけた総司でないこともセイには新鮮であったが、それ以前にその冷めた反応に驚いた。実際もっと喜んでくれると思ったからだ。黙ってしまった総司にセイが恐る恐る声を掛ける。 「あ、あの…沖田先生…?」 腕組みをし、溜息をついてとうとう総司が重い口を開いた。 「全く、何を考えているんですか。」 あまりの低い声にセイは驚いた。 「え?」 (せ、先生怒ってる…?) セイには理由がわからない。 「貴女にそんな危険な事をしろと頼みましたか?」 「い、いいえ。私が勝手にした事です。」 「迷惑なんですよ。大事な捕り物に、女子の分際で首を突っ込まれちゃあ。」 「…!そんな言い方…!!私はただ先生のお役に立ちたくて…。」 (沖田先生を護りたくて…!) 「こんな真似をして、私が感謝するとでも思ったのですか?女子とは浅はかですね。」 「な、ひど…!」 セイはとうとう泣き出した。だが総司は慰める訳でもなく、さらに冷たく言い放つ。 「とにかく金輪際こういう事はお止めなさい。さあ店まで送りますよ。」 帰り道、セイは未だ涙を止められずにいた。前を歩いている総司の背中は気遣う訳でもなく、尚も冷たい。セイの嗚咽だけが辺りに響いていた。 (こんな冷たい人だったなんて…。) そんな事を思ううちに店が見えてきた。 「太夫…。」 不意にセイが顔を上げる。道すがらずっと黙っていた総司の重い口が漸く開いた。 「…こんな軽率な事は二度とお止めなさい。貴女はもっと自分の弱さを知るべきです。命がいくつあっても足りませんよ。さあ行って。店に入るまで見ていて上げますから。」 セイは溜まらず駆け出した。総司の顔を見るのが怖くて振り向く事も出来なかった。きっと自分に軽蔑の眼差しをくれているに違いない。セイの胸は張り裂けそうだった。 それを見送る総司は無意識に自分の親指を噛んでいた。血の滲むほどに…。 「おセイちゃん、どこ行ってたん!?心配したんよ…。」 明里が凄い剣幕で二階から降りてきた。しかしセイの方が何十倍も凄い剣幕で明里を驚愕させた。 「わ~ん、明里姐さん~っ!」 セイがぐちゃぐちゃの顔で明里に飛びつく。 「わっ!どないしたん!?何かあったん!?」 セイは大声を上げて泣きじゃくるだけで明里は暫く彼女に胸を貸してやる事しか出来なかった。 「おおお、総司じゃねえか!何でぃ意外と早え帰りだな!首尾はどーだったよ!?こっち来て話し聞かせろや…。」 と宴会中で半裸の左之が声を掛けるが、総司はどたどたと勢いよく横を通り過ぎるだけで彼に一瞥すらくれなかった。新八も障子越しから赤い顔を出す。 「どーしたどーした?」 左之は腹の切腹跡をボリボリ掻きながら言葉を吐き捨てる。 「何でえ、すかしやがって…って何かあったかな?」 「………………。」 今だ同席していた斉藤も怪訝に総司の背中を見送りながら右手の杯を仰いだ。 PR
「沖田先生、女の方が屯所の前でお待ちです。」
そう平隊士に告げられ、 「え…?」 と稽古を終えた総司が答えている背後から、物凄い足音が聞こえてきた。 「「「総司の馴染みが来たって~!!!」」」 例の三人組だった。我先にと怒涛の如く駆けていく三人に総司は脇から足をことごとく引っ掛けた。大の男が面白い様に転がって行く。そして総司は足早に玄関に向かった。 「沖田先生!」 それは紛れもなくセイだった。 「た、た、太夫!ほんとに貴女だったなんて…。」 「すみませんね!私で!って他にも沖田先生を訪ねてくる女子がいらっしゃるんですか!?」 「……いる訳ないでしょう?もう、何だってハナっからそんな喧嘩腰なんです…?」 「どーだか。」 総司は大きく溜息をつく。拗ねるセイを可愛いとは思うけど如何せんここは屯所だ。物凄い数になっているギャラリーの刺さるような視線がちくちくと背中に痛い。 「しかし何て無茶をするんです!?新選組の屯所に太夫が一人でお忍びで来るだなんて!あああ、ここのところ忙しくて十日ほど顔を見せなかったんで寂しくなっちゃったんですか?」 と総司はマジなんだか冗談なんだかわからない事を言っていた。これでもかなり動揺しているらしい。 (あ~もう!道中は勿論ですが、こんな男所帯に来たりして、危ないじゃないですか~!全く野暮天女王なんだから~!) とセイが聞いたら『アンタにだけは言われたくない!』と突っ込まれそうな独白。しかし総司は、背後の連中の荒い鼻息まで聞こえてきて気が気じゃない。ところがそんな総司とは対照的に、セイの表情は凛として厳しかった。 「…大事なお話があるんです。」 「へ?貴女がこんな所にまで来るほどの大事な話って…?でもここでは何ですから、場所を移しましょうか。」 なにやら後ろから野次やら口笛が聞こえてくるが、総司は無視してずんずんと歩き出した。手を引かれているセイからは見えなかったが、総司は耳まで真っ赤に染まっていた。 「あれが総司の馴染みの太夫…。」 「ねっね、マジ可愛いっしょ!」 「あああ、羨ましいぜチクショー!俺も一途になろうかなぁ…。」 「……あれが沖田さんの馴染みか。」 「「「うわあっ!ビックリした~っっ!斎藤いつの間に!?」」」 「…さっきからずっといるが?」 と三人の組長の会話にもう一人の組長がこっそり紛れ込んできた。斎藤一、三番隊組長である。 「…あの娘、どこかで…。」 「何ィっ!?斎藤、彼女を知ってんのかよ!?」 「………。いや、確証はない。他人の空似かも知れん。」 「どこかで会った気がする…なんざ、陳腐な口説き文句じゃねえか!いけねえな、横恋慕は!」 「いや、そんなつもりは…。」 「ううん、いいんだよ斎藤さん。わかるよ、その気持ち!あんな可愛い子だったら、俺だって惚れちゃうもんね!総司ばっかりズルイよね~。」 「いや、だから…。」 「そうかそうか、振られちまって可愛そうなヤツだなお前って…呑もう斎藤!俺たちが慰めてやる!」 「……………。」 本当はもっとセイの姿を見送って、記憶の断片を辿りたかったが、なんだか明後日の方向に話が進み、左之と新八に両脇を固められ、うやむやのうちにその場を退散させられる斎藤であった。 「…確かに可愛いが…。」 「ん?何だ斎藤?何か言ったか?」 「いや。」 斎藤の頬が少し染まったのを誰も知る由はなかった…。
その頃、セイはとある座敷に呼ばれていた。ところが呼ばれて座敷に上がって間もなく、『女、席を外せ』等とお決まりの文句を言われて別室で待ちぼうけを食っていた。
(何なのよ!身なりは立派だけど、なんて柄の悪い連中!秘密の会合すんなら妓遊びなんかすんなっつーの!) セイは心中毒付いた。 「太夫、姐さん方、またお客はんがお呼びでっせ。」 やれやれ、やっとか…とうんざりしながら元いた座敷に向かったセイだったが、障子を開けた途端にセイは豹変する。 「もう、旦那方ったら、焦らさないで下さいな。」 とにっこりと極上の笑みを浮かべた。太夫の美しさにその場にいた男共から感嘆の溜息が漏れた。セイはプロだ。まるで総司の相手をしている時とは天と地の差だった…。 「あああ、すまなかったな太夫…!さあ、こっちへ来て酌をしてくれ!」 「へえ、私なんかで宜しいんで?」 と言いつつ、心中真っ赤な舌を出すセイだった。 (早く終わんないかなぁ。) 笑顔の下でセイが心中ぼやく。だいぶ連中の酔いが回った頃、酒の力で勢り立った男の一人が 「土方め…目にもの言わせてくれようぞ…!」 と呟いた。え…?とセイは表情を崩さず耳を欹てた。 「おい、口を慎め。油断は禁物だぞ。」 とリーダー格と思われるセイの隣の男に嗜められた。 (土方って…確か沖田先生の話によく出てくる新選組の副長よね…?ってことはこの連中は長人?) 「ま、今宵は存分に存分に楽しもうぞ。前祝いだ!」 (前祝い…何の?) セイは尚も表情を崩さず、お酌をしながら思考を巡らせた。何だか悪い予感がする。どうやらこの連中、何かの計画を立てているらしい。その標的が土方…すなわち新選組だとしたら…?総司も当然危険に晒されるに違いない。全身の血の気が引いた。 (私…なんて奴らにお酌をしてるの!) セイは隣の男の顔を見て虫唾が走る。そして自分が心底情けなかった。太夫などと呼ばれても所詮は女郎、そして非力な女子。好いた男の敵と思われる輩を目の前にして、何も出来ない自分が歯痒かった。全くの清い仲で、ちっとも恋人なんて呼べる立場じゃないけれど…。 (でも…。沖田先生の危険を知っていて、何もしないなんて事出来ない!あの人を護りたい!) ふとセイは何かを思い立って、酌をする手を更に早め、隣の男に自分の身体を摺り寄せた。男の喉が鳴る。そして少し瞳を潤ませながら、可愛らしい唇をそっと耳元に寄せて何かを呟いた。
最近、総司に馴染みの妓がいるらしい。
ここは壬生にある新選組の屯所である。某幹部共の間では、そんな噂で持ちきりだった。 「で、どんな妓なんでぇ!?まさか禿だった、なんてオチじゃぁあるめえな!?」 「それって総司じゃ冗談にならないもんね。ところがどっこい、列記とした島原の遊女で、しかもなんと太夫らしいんだ!すっごい別嬪で、しかもかなり気風のいい江戸弁をしゃべる子なんだって!あの総司が三日と空けず通ってるんだから。」 「何ィ!?禿じゃねえんだな!そいつぁ目出度えじゃねえか!ってか平助、お前なんでそんなに詳しいんだよ!」 「だって俺、山南さんのお供で一度その置屋について行って、ちらっと姿を…いてててててててててっ!」 と男二人に同時に肘固めと四の字固めを喰らっていた。この三人、原田左之助、藤堂平助、永倉新八。言わずと知れた新選組の大幹部、おのおの一隊を率いる組長共である 「くそぅ!是非ともツラを拝みてえが、太夫じゃ手が出ねえ!」 と二番隊組長が叫ぶ。普段から酒だ、妓だ、と遊びまくっている彼らにそんな余裕はなかった。 「…誰のツラを拝みに行くんですか…?」 三人の背後から声が掛かる。と同時に三人は凍りついた。ギギギギギギ…と建付けの悪い扉が開くような音を立てて三人が恐る恐る振り返ると、薄ら笑い…いやいや微笑を浮かべる噂の一番隊組長がいた。しかしその目は全く笑っていなかった。 「…誰のツラを拝みに行くんです…?」 (((二度言うな~っ!怖ぇから~!))) 普段ボケ役の十番隊組長までもが心中ツッコむ。八番隊組長はすでに逃げ腰だ。その襟首を掴み、脂汗を掻きながらも二番隊組長は食い下がった。 「いやぁ、そのぉ何だ!あれだ!おめえの事を心配して言ってる、言わば兄心みてえなもんだろ!大事な弟が妙な妓に引っかかりでもしたら、近藤さんに申し訳がたたねえってもんだ!だからここはひとつ、様子を見に行ってやろうと…。」 「そうそう、決して野次馬根性や、あわよくば…。」 ボカッ★と左之の頭にすかさず鉄拳を食らわして黙らせた新八であったが、時すでに遅し。もう平助などは涙を流しながら、ガクガクと震えている。 「ふふふ、そうですか。それはそれはご心配痛み入ります…。それはそうと、皆さん夜道は気をつけて下さいね、最近物騒ですから。私も夜目が利かなくて困っちゃってるんですよね~。」 あはははは…と総司は笑いながら踵を返し、その場を去っていった。三人はへなへなとその場に崩れ落ちた。まるでたった今、総司必殺の三段突きでも喰らったかの如く…合掌。
「明里姐さん、セイ姐さん。新選組のセンセ方がお見えでっせ。」
禿のお志津が二人を呼びに来た。 「あ、太夫こんにちは~♪」 満面の笑みでこちらにふりふりと手を振る、ひょろっとした長身の優男と、柔和で温厚そうな男がいた。まるで信じられないが、これでもこの二人、泣く子も黙る新選組の、しかも大幹部である。 「お越しやす。」 明里が深々と頭を下げた。その横でセイは手を振る優男に睨みを利かせていた。 「おセイちゃんったら…。」 小声で明里が叱咤するが、セイの機嫌は変わらない。数日前に慰めて貰ったものの、状況は何一つ変わっていないのだ。その上でへらへらされて余計に憎らしいったらありゃしない。 「おや、明里。今日は太夫の機嫌が悪そうだねぇ。」 「へえ、えろうすんまへん。」 明里も何と言って良いのやら。明里からセイと総司の事をよく相談されている温厚そうなこの男、実は新選組総長の山南敬助は、ふとセイの不機嫌の理由を思い立って尋ねる。 「また総司が何かやったかね?」 ((何もしてないから怒ってるんです!)) 約二名の心が同時にツッコんだ。 「嫌だなぁ、山南さん。何でもかんでも私のせいにして~。あ、わかった!太夫今日あの日…。」 ばっちーんっ! セイの平手が見事に総司の左頬に炸裂した。あの新選組一番隊組長沖田総司の懐に素早く潜り込んでの会心の一撃。常人の目には留まらぬ速さであろう。この太夫タダモノではない。 「沖田先生の馬鹿!大っ嫌い!」 セイは器用にある裾を捲り上げて、見えるはずのない白い足をチラつかせ、ばたばたとその座敷を飛び出した。 「んもう太夫たら、あんなあられもない格好で…またそこが可愛いんですけど。あ、山南さん、私お先に太夫の部屋に行きますんで、あとは明里さんとごゆっくり♪」 総司も真っ赤に腫れ上がった左頬をさすりつつ、いそいそとセイの後を追って座敷を出た。 (あれで部屋に入れて貰えるのか…?) という胸中ツッコミはあるものの、実はこの二人にとっては、これが日常茶飯事であったりする。 「えろうすんまへん、山南はん。堪忍え。おセイちゃんったら、新選組のお人に何ちゅうことを…お手打ちもんや…。」 毎度のこととはいえ、明里はハラハラだ。涙目で山南に訴えた。 「いやいや、今のはどーみても総司が悪いだろう。あんな風にからかったりして、太夫が怒るのは当然だ。こちらこそすまない。どうか出入り禁止になどしないでくれないか。そんなことになったら、私は総司を恨んでも恨みきれないよ。」 と山南は明里の手を上から優しく握った。 「山南はんたら…うちらもお部屋に行きまひょか。」 「明里…。」 こちらは打って変わって大人の世界が繰り広げられていった…。 一方、お子ちゃま部屋では… 「…太夫~、ねえ開けて下さいよぉ。」 「………………。」 「ここ寒いですよぅ。ねえ太夫ってば。」 ちょっと甘えた声。セイは唇を噛み締め、グッと堪える。なんてデリカシーのない男だろう。そして女心の微塵も察しないあまりの野暮天ぶり。今日という今日は意地を張り通してやろうと心に堅く決めたセイだったが、あの甘えた声に至極弱いのだ。姉達に甘やかされて育った末っ子ゆえに身に付いた総司の必殺技だ。いつも辟易されながら、それでも結局惚れた弱みでセイが折れてしまうのだった。 「…っくしゅ!」 ハッとセイが顔を上げる。思わず襖を開けそうになったが、頭を大きく振り何とか堪えた。 (い、いかん、いかん!ここで開けたら私の負けだ!) セイは自分の心に活を入れる。いつの間に勝負になったのやら…。 「そ、そのくらい涼しい方が、少し頭が冷えて良う御座いましょう!何とやらは風邪を引かないと申しますし、先生がお引きになる風邪なんてありませんよ!」 襖の向こうにかなりボロクソに言って聞かせる。 「酷いなぁ。それじゃあ、まるで私が馬鹿だって言ってるみたいじゃないですかぁ。」 ……………。もうツッコむ気も失せてセイはうな垂れた。 一方、鼻をずず…とすすりながら総司はその場にしゃがみ込む。今日の太夫はかなりしぶとい。流石の総司も何かしたかな…と少し考えてはみるが、全く身に覚えがない。―-ってか何もしてないのが原因なのだから、ましてやこの野暮天大魔王がそんな事に気付く訳もなく…。総司はうだうだ考えるのは止めにして、再度食い下がる事にした。そもそもこの男の脳自体が考える事に向いていない。うだうだ、といってもほんの数秒ほどの事だ。甘え上手のこの男が、考えるより先に口を紡いで出た言葉は… 「太夫…、ここを開けて…、………ねえ、セイ?」 (………っ…、詐欺だ…!もうこの男は~~~~~っ!!!) セイ心の絶叫。総司の甘えた声がまるで撫でられたようにセイの背筋をぞくりとさせる。涙目になりながら、セイは観念した様に何かに取り掛かり始めた。しかしそんな殺し文句にも未だ襖は開かれず。あれ…?と総司の当てが外れる。考えなしの割には確信犯である。 (これでも駄目かぁ…。) と腕組みをして襖に寄りかかろうとした時にそれは突如開いた。その拍子に半分ズッコけそうになりながら振り返るとそこにはセイが立っていた。一応睨んではみるがセイの敗北感は否めなかった。総司も少しぶつけた頭を掻きながら視線をかち合わす。 「…先生、またお饅頭お持ちになったんでしょう?お着物から匂いがしましたから。熱いお茶を入れましたから…中へどうぞ。」 総司が満面の笑みになる。セイが罰の悪さで顔を逸らす。 「やあ、よく分かりましたね!そうなんですよ!今日は福栄堂の『祗園の月』です♪あっさりした甘みと白玉のもちもち感がもうなんとも…!!!さすが太夫!匂いで気付くとは、鼻が子犬並…。」 そして懲りずに平手の音が花家に木霊するのであった。
いじわるはしないで 「んもーっ、信じらんない!」 「…どないしたん、おセイちゃん。急にそないな大っきい声出さはって…。」 「あ~、明里姐さん聞いてよ~!」 「はいはい、また沖田センセ?」 ここは遊里島原の置屋、店の名は花家。洗い髪を振り乱しながら叫ぶ、まだ少女にしか見えぬ妓、名をセイといい、こう見えても位は太夫である。そしてその姉貴分の天神の明里に、どうやら図星をさされたようで真っ赤になった。 「……う…、……そうなの~っ!沖田先生ったら昨日もいっぱいお饅頭持って来てくれたんだけどさ~、そりゃあ甘いものは大好きだけど…、すっごくおいしいお饅頭だったけど…、新選組のお話も面白おかしくしてくれて、とってもとっても楽しいんだけど…でもでもでも…。」 機関銃はそこでふと止んでしまった。セイの目には今にも溢れんばかりの大粒の雫。明里は溜息をつきつつ、先を即す。 「…でも…?」 「………せ…接吻すらしてくれないの…。やっぱり女子に興味なくって、でも付き合いでしょうがなく郭に来てて、しょうがなく私を指名してるんだ~っっ。」 とうとう大きな雨粒が落ちてしまった。 「あら~、そないなことないで。山南はんだってよう三国志の話だけしはって帰らはりましたえ?」 「でも今は違うでしょ!ラブラブじゃん!」 即答されて今度は明里の方が黙ってしまった。こういうときはどう慰めても無駄である。はっきり言って八つ当たりだ。しかし明里は厭な顔もせず、むしろ微笑ましく思い言葉を紡いだ。 「おセイちゃんは、ほんまに沖田センセが好きなんやね…。」 「えっ///!違…っ…。ただ私の花代って、自分で言うのも何だけど…い、以外と高いじゃない!話すだけだったら別に、私でなくっても…。」 ごにょごにょ…とまだ何か呟いている。 「とか言って、沖田センセが他の子指名しはったりしたら、また悋気起こさはるくせに…。」 というツッコミが、すぐさま明里の心に浮かんだが、そこはセイよりずっと大人なのでそれは心に留め置いた。 「…山南先生と明里姐さんが羨ましいよぅ。」 ついにセイが本音を漏らした。可愛い妹分の悋気に明里の顔がふっと綻ぶ。そして 「よう分からんけど、昨日は沖田センセ一人で来はってたやないのん。付き合いで来てるんやったら、お一人で高う花代払うておセイちゃんに会いに来るやろか?ちゃうやろ?ちょっと野暮天なとこあるって、山南はんも言うてたし、きっとそないなとこ奥手なだけやって。大事にしてくれはる証拠や。」 と今度は明里が捲し立てた。実はセイがまだ花家に来る前から沖田先生とやらには、花家に馴染みがいた。名は小花。沖田は郭でありながら、彼女とは床入りなしという一風変わった約束を交わしていたらしい。それこそ付き合いで、しょうがなく来ていたのだ。それを知っていた明里は、セイにも同じ様な態度を取っている沖田に対しはっきりとこんな断言は出来ない筈だったが、それでもセイに対する沖田の態度は小花へのそれとは違う気がする。確証はないけれど女の勘だ。 「そうかなぁ…。」 漸く機嫌を取り戻したセイはやっと微笑んだ。さっきまで泣いたカラスが…とはよく言ったものだが、セイの笑顔は本当に可愛らしい。そのコロコロと子犬の様に表情の変わる彼女に参っている男は数知れず…ここいら辺が太夫たる所以だ。ただ哀れなのはセイにその自覚がない。故に太夫のくせに沖田一人に一喜一憂なのだ。 (当たってるといんやけど…。) 慰めた手前、明里はそう願わずにはいられなかった。お互い故あって遊女になってしまったが、それでもこんな可愛い妹分には本当に幸せになって貰いたかった。自分と山南の様に…。
また久しぶりになっちゃいました…。
パン作りもブログもな…。 いい加減粉が悪くなるといけないので もっと頻繁に焼かないとダメなんですが。 そんな訳で今日はとうとう一気に4斤焼いて見ました~。 見かけ3斤ですが、手前から1斤・1斤・2斤型で作りました♪ 今日は練乳をちょっと混ぜてみたけど味にどのように影響したかしらん? とりあえず膨らみや焼き具合に悪影響にはなってないから失敗ではないようだし(笑) さて? しかし先日あれだけ文句言っておきながら やはりホームベーカリーの購入を考えてます。 やっぱり自分で捏ねないですむのは羨ましい…!!! それで普通に2斤焼けるタイプにするか話題のG●PANにするか…。 G●PAN増産決定だそうですが増産分の色は白のみだそうで どうせなら…あ、赤が欲しいし(笑) でもどちらにしろ4斤いっぺんには焼けないけどさ。 |