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もっと見つめていて あたしきっと上手になって 香りある女になるから だから 暮六つ時。島原のとある座敷で宴会が繰り広げられていた。チントンシャン…と美しい三味線の音が響き、可憐な妓たちが舞っていた。そしてキリのいいところになって、三味線を弾いていた芸妓がパンパンと手を叩き、他の舞妓共に声を掛けた。 「…あんたらはもう戻ってええし。お疲れさんどす。はよ行きよし。」 「「「「「は~い。失礼しま~す。」」」」」 ばたばたと舞妓たちが部屋を出て行った。部屋には芸妓一人と浪人風の男共が十数名ほど残って一瞬しん…と静まり返る。それまで笑顔を絶やさなかった芸妓が一転変わって、神妙な面持ちで男共に小声を掛ける。 「ほんまにやってくれはるんどすやろね?」 「おう、任せておけ。俺達にも新選組には相当な恨みがあるからな。」 その頼もしい言葉に芸妓が手を叩いて喜ぶ。 「まあ、嬉しい!うちも新選組にすっごい憎いお人がおりますのや!もうそいつったら女心の欠片もわからへん野暮天やし、饅頭には目がないし、人のこと仔犬扱いするし、とんでもなく冷たい態度を取ったかと思たら、いけしゃあしゃあと会いに来はるし、上司はすっごい女ったらしやし…。」 「…お、おい?」 芸妓の物凄い剣幕に浪人共がたじろぐ。芸妓ははっと我に返って咳払いをした 「え?あぁ、こほん!えぇっと、とにかく!きっときっとうちの恨みを晴らしてぇや!お武家様!」 「ああ、お前が新選組の幹部共を誘き出す手筈でいいな!?」 「へえ、よろしおす。」 「では、決行は明日の暮れ六つで…。」 「…いいえ。」 「何?」 「…今すぐお願いします」 と同時に芸妓の後ろの障子がスパンッと開いた。障子の向こう、その芸妓の背後には新選組の面々がずらりと並んでいた。そしてその中の長身の男がずいっと一歩前へ出た。 「新選組一番隊組長沖田総司です!神妙に縛につきなさい!」 それを合図にわぁっと一斉に新選組の捕物が始まった。居を衒った浪人共が次々と捕縛されていった。ある者は抵抗し、斬り捨てられでずん、と畳の上に沈む。 「お、妓~!謀ったな~!!!」 その光景に狼狽した浪人の一人が裏切り者の芸妓に斬りつけようとするが、それは一瞬の風に阻まれた。ギリギリと刀の軋む音が辺りに響いた。 「…感心しませんね。丸腰の女子に斬りつけるなんて。ちょっと気持ちは解らないでもないですが、騙される男も悪いんですよ。」 と総司が自分の背に芸妓を庇い、返り血を浴びる事無く瞬時に浪人を斬れ付した。そして大方の捕物が終了した頃 「…沖田先生。」 ふと背中の羽織を掴まれる。総司はその聞き覚えのある声に驚愕して自分の背に隠したその人に恐る恐る振り返った。総司の心の臓は一瞬止まったかもしれない。刹那、声すら出なかった。 「………た、た、た、たた太夫~~!?」 総司の素っ頓狂な雄叫びが京都の闇夜に木霊した。その声に遠くで野犬が共鳴し、わぉ~んと遠吠えも聞こえたとか。(笑) PR COMMENTS
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