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その後、セイは新選組の捕り物が成功したらしいと風の噂で聞いた。首尾の良さから敵は一網打尽、新選組に犠牲者は一人も出なかったという。
「良かったぁ…。」 という言葉とは裏腹に、セイの瞳は悲しみに潤んでいた。 あれから総司はセイのところに一度も顔を出していない。 「おセイちゃん、お饅食べる…?」 と明里がセイを元気付ける為にお茶と饅頭を用意したが、それが返って総司を思い出させた。 「ううう、明里姐さ~ん。沖田先生来ないよぅ。私やっぱり嫌われちゃったんだ~!」 「おセイちゃん…。」 明里も慰める言葉が見つからない。そっと頭を撫でてやる。少し痩せた様に見えるセイが不憫でならない。しかし 「…セイ姐さん、万屋の若旦那がお見えでっせ。」 とお志津が呼びに来た。こんな時にも遊女は仕事である。 「ああ、今行く…。」 セイはすくっと立ち上がり、支度を始める。 「おセイちゃん…。」 「大丈夫!他にも贔屓にしてくれるお客さんいるし!私は大丈夫だよ…じゃあ行ってくるね!」 セイは明るく言い放ち、仕事の顔になって部屋を出て行った。セイの裾音が聞こえなくなると明里は呟いた。穏やかな彼女の言葉にしては珍しく、少し怒気が含まれていた。 「沖田先生の阿呆ぅ。おセイちゃんこないにしはって…。」 そこへい~い(悪い?)タイミングで、山南が訪ねてきた。 「いったいどーいうおつもりどす?」 明里の怒りは山南に向けられていた。哀れ、とばっちりを食った山南は明里を宥めるが、総司の気持ちも解らなくはなかった。 「君の怒りは最もだけど、総司の気持ちもね、解ってあげて欲しいんだよ…。」 「そら、おセイちゃんは危険を顧みんと、お節介したかもわかりまへん。しやけどそれでうまくいかはった聞いとります!せやのに何で来いひんの!?お礼言うてくれとまでは言わへんけど、沖田センセの為に、おセイちゃんがどんだけ…。」 山南は苦笑して聞いていたが、男の立場でちょっと反論してみることにした。 「総司はね、怖いんだよ。」 「…何がどす?」 明里が首を傾げる。山南が優しく論す。 「これ以上自分が太夫に関われば、また太夫を危険に晒す事になるって、恐れているんだ。自分さえ来なければ、太夫を泣かせる事もない、とね。」 「何ちゅう臆病モンや!おセイちゃんを見縊らんといて!」 おおよそ彼女の言葉とは思えないほど、明里はピシャリと言い放った。思わず山南は後ずさって息を呑む。 「おセイちゃんは、生半可な気持ちでお節介焼いたんとちゃいます!沖田センセの為に命懸けられるんどす!その覚悟を受け止められへんやなんて、何ちゅう器の小っさいお人や!」 明里の言葉に山南は耳が痛い。セイの話をしているが、きっとこの妓も同じくらいの強さを持ち合わせているであろう。女子とは何と強い生き物か。女子が弱いなどと思っているのは、勝手な男の思い込みかもしれない。 「…解ったよ、明里、総司にはそう伝えておこう。この話はこれで終いにしていいかい?君の口から他の男の話を聞くのは、ちと辛いかな…。例え総司の話であってもね。」 と山南は片目を瞑って笑ってみせた。 「何言うてはるん…。」 山南のかわいい妬きもちで、明里に漸く笑顔が戻った。 一方こちらはセイの座敷。 「若旦那…そのお話は…。」 手を強く握られて、セイは困っていた。 「何でや?太夫?わては早うこないな所から太夫を解放したい思とるんや!決して太夫に不自由なんかさせへんさかい、ええ返事を聞かしたってえな…!わての事嫌いなん?」 「嫌いだなんて、そんな事ありません。」 「せや何で…!」 (無理強いしないし、いい人なんだけど…。) セイは何とか万屋の若旦那を傷つけない理由を考えていた。万屋の若旦那は皮肉にも齢は総司と一緒、割と男前な上仕事も真面目で評判も良い好青年であった。セイがここに来た当初から贔屓にしてくれていて、セイもこの男を嫌いではなかった。今まで散々プロポーズをかわしてきたので、そろそろ万策尽きていた。目を泳がせているセイに対して若旦那はこれだけは言うまいと思っていたが、それでセイの心を動かせるなら…と、とうとうその言葉を口にした。 「…太夫に他に好いた男がおる事は知ってんねん…。それでも、わての傍にいて欲しいんや!太夫がそのお人を忘れるまで、いつまででも待つよって…後生や…。」 優しい言葉にセイは涙が出そうになった。心に引っかかるのは総司の事。でも恋人…と胸張って言える仲ではないし、何といっても総司は最近とんと姿を見せない。愛想を尽かされたのだとしたら、頑なに断り続ける理由があるだろうか? 「すみません、若旦那…。もうちょっとだけ…。」 「…わかった…。ええ返事待ってるで。」 セイは心の整理を付けられずにいた。 PR COMMENTS
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