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「沖田さん、隣いいか?」
自分の部屋の縁側で、刀の手入れをしている総司の横に、斎藤が立っていた。 「ええ、どうぞ。斎藤さんの部屋の前でもあるんですから、何の遠慮があるんです?」 くすくすと総司が笑う。 「それもそうだな。では遠慮なく。」 と斎藤が腰掛ける。そして一つ咳払いをして切り出した。 「あんたの馴染みの事だが…。」 「え…?」 総司が仕上げに刀を拭いていた手拭いを取り落とす。 「最近通ってないようだな。非番の日はいつも部屋にいる。」 「ああ、ちょっとお金なくって…はは。」 と乾いた笑いをして手拭いを拾う。 「…そうか。あんたがもう行く気がないのなら、俺が通ってもかまわんか?」 「は?斎藤さん何言って…。」 「…思い出したんだ。あれは今は亡き友人の妹でな。遠目で判り辛かったが、あの大きな瞳は間違いないだろう。あれの本名は富永セイ。家は町医者だったが、家事で焼けたと聞いている。あれの兄で俺の友人、富永祐馬はその時に父親と共に死んだらしい。妹はその後行き方知れず、どうしたのかと気になってはいたが、まさか遊女になっているとはな…。」 「へえ、じゃあ斎藤さんはおセイちゃんが好きだったんですか?」 とセイの過去を知っていた訳ではなかったが、斎藤の話しに別段驚く訳でもなく、総司がへらっと聞いた。 「ああ、多分な。」 斎藤もしれっと答える。 「多分って…そんなんで…。」 「友人の可愛い妹だと思っていた。何しろ富永が妹を溺愛していたものだから、他の男なぞなかなか近づけなかったし、俺も修行中の身であったから、当時そこまでは考えが及ばなかった。思い出した時、…少し運命を感じた。」 ざわっと庭の木々が揺れる。そしてまた静けさを取り戻した時総司が口を開く。 「…そうですか。太夫は私のモノではないですから、ご自由に…って言いたいところですが、そんな運命なら私の方が勝っていますから、その理由ではちょっと頷けないですね。」 「どういう意味だ?」 「ご自分の方が出会いが早いと思ってます?太夫は忘れちゃってて、それがちょっと哀しいんですけど…。」 「………?」 「これ以上は秘密です。」 PR COMMENTS
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