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風光る京都~傷跡~ 第七話 鬼副長の部屋
 総司が向かった先は、真っ直ぐに土方の部屋。



ドタドタドタドタドタ! ガラッ! ピシャ!



「土方さん!」

土方の部屋の障子が勢いよく開いて閉じられた。

「何だよ、煩えな。もっと静かに入って来れねえのかよ?」

呆れた顔で土方が振り返る。肩で息をしている尋常でない弟分の様子に端整な眉をしかめて、とにかく座るよう即し、自分の呑みかけの温い茶を差し出す。総司はそれを一気に飲み干した。

「で、どうしたよ?」

「実は…。」

と漸く一息ついた総司はセイから聞いた一部始終を土方に話し始めた。聞き終わった土方が

「へええ。手前にしちゃまたずいぶんと度胸のある、上等な出来た妓じゃねえか。どこの置屋の妓だ?」

と珍しく感心した。そんな土方の言葉に総司はカッとなって反論する。

「な、冗談じゃないですよ!無茶にも程があります!こんなことをして一歩間違えれば、殺されていたかもしれないじゃないですか!なんて、なんて馬鹿なことを…。」

袴を握る手が俄かに震えていた。セイがこんな危険を冒したのは、紛れもなく自分のせいだ。セイが自分の為に命を落とすなんて、考えただけで、怒りとも、恐怖とも思えるほど身体が震えた。そんな様子を土方はわき目に見ながら

「ともかく手前がどう思おうと、聞き捨てならねえネタだ。信用できるかどうかは別として、山崎に調べさせる価値はあるな。日もねえ事だしさっそく…。」

と人を呼んでてきぱきと指示を出し、さっさと準備に取り掛かり始めた。

「…ってサクサク話を先に進めないで下さいよ!土方さん!私は怒ってるんですから!!ああ、私が彼女に関わらなければ…。」

と頭を抱えている総司に土方は

「…で、その様子じゃ手前その妓に迷惑だとか何とか抜かしてきやがったんだろ。可哀想にな、今頃泣いてんぜ。」

と溜息をついた。この男、新選組では誰もが恐れる鬼の副長であったが、この弟分と女子の心情に関しちゃ赤子の手を取るように察するに容易なことであった。

「う…。」

図星を突かれてたじろぐが、駄々っ子は尚も食い下がる。

「…だって、あまりにも軽率なんだもの。事の重大さがまるで解ってないんです…。きっと自分の命を危険に晒しただなんて、少しも思っちゃいないんだ…。」

最後の方はうわ言になっていた。土方は再度溜息をついて、

「そうじゃねえだろ?そいつは…。」

と言いかけて止めた。

(そいつは、手前の命懸けてもいいほどお前に惚れてんじゃねえかよ…。)

「…?…何です…?」

と総司が上目遣いで言葉の先を即す。が、元来意地悪な性分の土方は、そこまで教えてやる気はなかった。

「馬ー鹿、手前で考えろ。それより面白え妓だな。別嬪か?俺にも今度会わせろや。」

土方はどうやらセイに興味を持ったらしい。

「絶対嫌です。」

総司は即答した。総司は土方に対して本能で、不逞浪士との斬り合いの時よりも危機感を覚えていた…。

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